15帰宅
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似はできなかった。
「栞との約束を守りたいです。でも、せめて香里が良くなるまで付き添ってやりたいと思います」
「う〜〜っ」
祐一の左腕を掴み、声を押し殺して泣く香里。栞は秋子に気に入られて勝てたようだが、今後も姉と恋人の医療行為は続き、様々な女達が祐一に纏わり付くのが予想できたので、すっきりと決着が付いたとは到底思えなかった。
「それでは、今後祐一さんは栞さんと交際すると言う結論でよろしいでしょうか?」
「分かりました、相沢さん、娘を、娘達を宜しくお願いします」
両親から頭を下げられ、祐一も頭を下げたが、静かに泣き続ける香里には合わせる顔が無かった。
「じゃあ、ちょっとお借りしますね」
秋子は栞用の婚姻届を手に取り、証人の欄に自分の名前を書き込んで印鑑も押した。
「「えっ?」」
それを見た香里は、最大の敵のために書類まで用意してやった自分の間抜けさを後悔したが、その屈辱を忘れないよう、舌を噛み切る程きつく噛み締め、その苦痛とともに秋子の筆跡を両目に焼き付け、完全に記憶した。
「まだ提出できませんが、婚約の印です。一生を決める大事な物ですから、ご自分の字で書きたいようでしたら署名し直します」
「はい……」
自分と祐一の名が書かれた婚姻届を手にして震える栞。姉が書いたのは気に入らなかったが、筆跡を調べれば誰が書いたか分かる、この結婚を一番承認できない相手の自著なので、これはこれで役立つ物だと気付いた栞は、大事にとって置くことにした。
「よろしいのですか? 水瀬さん。それに、相沢さんのご両親にはお話しなくて良いんですか?」
「ええ、祐一さんの両親は海外におりますので、その間、親権は私が預かっています。でも若い二人ですから、喧嘩して簡単に別れてしまうかも知れませんね」
「そんなことありません」
そう言った栞だが、同じ書類が乱発され、この紙切れが何の役にも立たない代物だと気付くには、まだ少々の時間を要した。
「まだ香里さんが逆転する可能性もありますから、学校でも病院でも油断しないで下さいね?」
「え?」
まるでこれから何が起こるか知っているような表情で笑う秋子と、何を仕出かすか分からない姉を思い、今後の戦いが苦しい物になるのは簡単に予想できた。
「それと香里さん? 確か役場で大騒ぎして書類を貰ったんですよね、祐一さんが逆らえないように、周りの人を証人にして」
秋子の視線がこちらに向いたので、憎しみの表情を消し、普通の顔に戻す。祐一も左側の女がとっくに泣き止んで、凄まじい怒りのオーラを発散しているのには気付いたが、恐ろしすぎて合わせる顔?が無かった。
「そんなに騒いでません」
しかし既に、井戸端会議から喫茶店、風呂屋でのネタ話になり、耳に入れてはいけないような人物にも届いているのは知らない香里だった。
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