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KANON 終わらない悪夢
14婚姻届
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俺の名前の判子持ってるんだ?」
「え? 日曜に必要になると思って買っておいたの、登録もしてあるから、もうすぐ貴方宛に「印鑑証明」の書類が届くはずよ、確認して返送しといてねっ」
「それって」
 犯罪じゃないのか? と聞きたかったが、さっきの職員が上司を連れて戻って来た。
「この度は、どうも」
 どちらの意味にも取れる「どうも」とは便利な言葉であった。
「結論から申し上げますと、受理の日付を今日にして、後ほど条件を満たした時点で発効とする事は可能です、後は未成年のお二人の場合、この欄に保護者の方の承諾を」
 香里は(嘘)泣きながら、委任状(栞用)を取り出した。
(何て用意のいい奴なんだ)
 案外、家庭に収まるか、勤めに出れば、何かと才能を発揮しそうな香里。しかし罠にはめられる方は、たまった物ではない。
「はい、これで美坂さん側の承諾は確認できました、この書類を付けて頂いて、こちらに署名を、後は」
(秋子さん)
 祐一の脳裏では「了承」の二文字と、秋子の声が渦巻いていた。
(ああ、秋子さんの否定のセリフって、せいぜい名雪にコショウを掛けたときに「食べないで下さい」って言ったぐらいだな、あの真琴にだって「花火は外でする物よ」だったし)
「分かりました「了承」してもらってきます」
(計画的やな)
 わざわざ承諾と言わず、了承と言う所が計画的な犯行だった。香里は席を立ち、深々と頭を下げた。
「「お大事に」」
 頭を下げて見送る職員達の言葉も、すでに戸籍係の物ではなかった。

「じゃあ、行きましょうか」
(こいつ、余命3ヶ月とか言われながら、アクティブに生きてるよなあ)
 栞とは全く違う、香里の生命力に感心している祐一。もちろん香里の方は自分が回復しているのを知っている。
(いや、こいつはもう治ったんだ、そうに違いない)
「なあ、お前もう治ってるんじゃないか? さっきの結果」
 すると香里は、ゆっくり振り返って、こう言った。
「そんな事言う人、嫌いです」
「はおうっ!」
 その寂しそうな表情、声、言い回し、髪も切った今、全てがクリソツだった。
(今、肩にショールが見えたぞ)
「起きないから、奇跡って言うんですよね」
「ぐはぁっ!」
 確実に祐一の弱点を突いて来る香里、姉妹でたっぷり情報交換(自慢話)をしていたらしい。
 そこでつい、婚姻届や印鑑証明の追及を忘れ、香里の心配までしてしまう。
「疲れてないか? あれだけ泣いたら喉も渇いただろ、どこかで休んで行くか?」
 これは優しさから出た言葉では無く、「時間が稼げれば、秋子は勤めに出てしまう」と言う意味だった。
「もう、こんな早くから「休憩」なんて、昨日あれだけしたのに、まだ足りないの?」
「ちがうよっ」
 思わず名雪語で否定するが、もう祐一のグレー
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