14婚姻届
[2/5]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
何故か、この結果に絶望しているように見える娘を見て、不思議に思う父。
「どうしてだ? 相沢さんだって頑張ってくれたのに、それに栞だって」
自分の恋人を姉の命ために差し出した、とは言えなかった。
「だって……」
「え?」
その表情は、今まで決して父に見せた事がなかった、女の表情だった。
「あたしが治ったら、祐一に捨てられる、もう会いにも来てくれなくなる」
母親に似て気の強い娘が、人前で涙声で話し、こんな情けない表情をするのも初めてだった。
「お前、どうしたんだ?」
昨日、自分の寿命を聞く時でさえ喧嘩腰だったのが、今ではこうも弱くなっていた。 この時、父はようやく、自分の娘をここまで変えた相手、相沢祐一に嫉妬した。
病室に戻る途中…
「父さん、もし祐一と栞、結婚させようとしたら、あたし何するか分からないわよ」
この場合、栞がヤられる、祐一に何か問題が起こる、香里自身に大変な事態が発生する、のどれかだが、娘を犯罪者にして、もう一人を失うような選択肢だけは絶対に避けたかった。
「この間までは、お前が一番張り切ってたじゃないかっ」
「それは、祐一を諦めるため、栞と結婚するなら諦められた、でも今は嫌」
「どうして急に」
「呼んでるのよ、あたしの何かが祐一を」
それは香里に取り憑いた舞の魔物、「左手」が祐一を欲しがっていたから。
検査後、午後の短い時間、外出許可を貰った香里は、例のスプレーを貰い、祐一に見せながらこう言った。
「これの使い方、もう知ってるわね」
「ああ」
昨日の今日、それもあんな状態だったので、忘れられるはずも無い。
「もしあたしが倒れたら、昨日みたいに、これをたっぷり口の中に出して」
唇を舐めながら、明らかに違う顔と表情をする香里。
「は?」
「それから「ここ」をしっかり揉みほぐして、人工呼吸もしながら、ホテルか貴方の部屋で休憩したら治るのよ」
また祐一の手を左胸に持って行って、無理矢理触らせる。
「違うだろ」
昨日はあれほど嫌がった、人工呼吸と心臓マッサージも、自分から求めるようになってしまった香里は、家族を置いて祐一を引き摺りながら病院を出た。
「歩き回って大丈夫なのか? なんならタクシーでも」
「いいの、それとも祐一がおぶってくれる? 病院だから変じゃないわよ」
「恥ずかしい奴だな、せめて車椅子にしろよ」
「じゃあ、また二人乗り」
「よけい恥ずかしいだろっ」
そのまま近くにある総合庁舎に連行されて行く祐一。香里の足取りは軽く、とても昨日倒れて入院した女とは思えなかった。
「こんな所で何するつもりだ?」
本気で遺言の相談でもするのかと心配するが、今の香里にそんな必要は無かった。
「こっちよ」
祐一の手を持ったまま、窓口の職員に向かって
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ