第一話 養子
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」
「……そうか、いや、そうだろうな」
「ごめんなさい、お父様」
「謝る事はない、エリザベート」
この娘には皇帝など無理だ。正直で嘘をつくことが出来ぬ、人を疑う事も出来ぬ娘だ。何故わしは皇帝など望んだのだ。しかも今になって無理だと気付くとは……。愚かな。
「お父様、ヴァレンシュタイン中将とはどのような方ですの?」
「なんだ、興味が有るのか」
そういう年頃になったか。
「フレーゲル男爵が死なずに済んだのは中将のおかげだと聞きましたから」
違ったか……。
「まあ、確かにそうだが、そのことは口外してはいかんぞ」
「はい」
「あの男は、敵に回せば恐ろしく、味方にすれば頼もしい男だ。それに他人の心の痛みがわかり、その痛みを無視できぬ男だ」
あの男が息子であればな。だれもあの男を皇帝として迎えるのに反対はすまい。たとえ皇帝にならずとも、次のブラウンシュバイク公として安心して全てを任せる事が出来ただろう。わしより良い当主となったに違いない。エリザベートの事も任せておけたはずだ……。いかんな、なにを馬鹿なことを考えている。あれは敵ではないか、それを息子だなどと……。息子か……、息子……、しかし……。
「お父様?」
「……」
「どうなさいましたの?」
死なせる事は出来ぬ。父親としてこの娘を守ってやらねばならぬ。娘一人守れぬようでなにが公爵か。
「エリザベート、ちょっと用事ができた」
「?」
わしは席を立つと足早に奥に向かった。
「アンスバッハ、アンスバッハはおらんか、シュトライト、フェルナーはどこにいる」
■帝国暦486年7月11日 新無憂宮 エーリッヒ・ヴァレンシュタイン
なんだか知らんが、新無憂宮に来いと国務尚書から呼び出しがかかった。俺はあんたの部下じゃないんだけどな。文句をいっても始まらない、ヴァレリーと一緒に新無憂宮に向かうことにした。しかしなにが有った? まさかフリードリヒ四世がまたぶっ倒れたか。
ヴァレリーは蒼くなっているが、幸いミュッケンベルガー元帥がいるからあまり心配はいらないだろう。しかし、この時期の内乱は余り有り難くない。同盟に立ち直る機会を与えるようなものだ。厄介な事にならなければいいんだが。
宮内省の役人に案内されたのは東苑にある一室だった。東苑は先日の爆破事件から警備が厳しくなっている。部屋の前で警備兵が立っているが、はて、なにがある?
「遅くなりました。ヴァレンシュタインです」
中に入ると驚いたことに国務尚書のほか、帝国軍三長官、ブラウンシュバイク公、リッテンハイム侯がいる。何だこれは? 帝国屈指の実力者が集まってなにをする気だ? 大体なんで俺を呼んだ。妙な事はみんな表情が明るい事だ。少なくとも皇帝崩御は無い、となると何だろう?
「ヴァレ
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