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夜明け頃、まどろみながら、以前この病院に来た時の夢を見ていた香里。
足取りも重く、長く無視していた妹に何を話そうか考えながら歩いていた。そのための話の種も持って来たが、果たしてそれが役に立つのか、逆に自分が拒否されるのではないかと恐れていた。
シャーーーッ
部屋を仕切っているカーテンを開け、夕方の再放送のドラマを見ていた妹に対面する。
「お姉ちゃんっ」
ゴクリッ
時間が経過したとは言え、体はまだあの表情を恐れていた。下らない事まで全て記憶してしまう頭が、あの目を忘れさせてくれなかった。
「またドラマ? そんな夢物語、現実には無いのよ、いいかげんにしなさい」
自分が無視されて、下らないドラマを優先されそうで、また憎まれ口を言ってしまう。
「どうしたの、お見舞いに来てくれたの?」
妹は自分の存在を恐れている、そして自分自身も。
「いいえ、今日は報告に来ただけ、はい、これ」
そこにレポート用紙を置いて、逃げるように立ち去る、今日は話をするのは無理のようだった。
「待って、お姉ちゃん」
「子供じゃないんだから、その呼び方もやめて、学校で「お姉ちゃん」なんて呼ばないで」
もう自分は姉と呼ばれる資格は無かった、これから何かを積み上げてこの溝を埋め、いつか以前のように話せる日が来るかも知れない、だがそれはマイナスからのスタートだった。
(じゃあ、どう呼べばいいの? 美坂さん? 香里さん?)
栞の方は、百花屋でのよそよそしい挨拶を思い出しながら、香里の置いて行った紙を手に取って見た。
「えっ?」
その表題にはこう書かれていた。
『相沢祐一観察日誌』
2月15日、8時24分
「ようっ香里、今日も予鈴ぴったりだな」
「くーーーー」
今日も半分寝ている名雪を引き連れ、走って登校して来た相沢君に話し掛けられる。
「あなた達こそ、よくそれで遅刻しないわね」
「ああ、日頃の行いがいいからな」
彼は知ってか知らずか、最近この言葉を使うようになった。 会えなくなった自分の恋人の言葉らしい。
「お姉ちゃん」
それはまだ事務的で、深い溝に土砂や石を投げ込むような、荒々しい方法だったが、栞の瞼を潤すには十分だった。
「ありがとう」
数枚に渡るレポートには、丸一日の間、祐一と交わした会話、祐一が誰かと話していた内容が、詳細に書かれていた、要はストーカーである。
(お姉さん、姉さん、お姉さまっ、ふふっ、姉ちゃん、姐さん、姉貴、姉御、姉上っ、カオリンッ、うふふっ)
新しい呼び名の候補を考え、不適切な部分で笑っている栞、二人の間の溝は早くも埋まりつつあった、涙と言う名の川の流れで。
入院翌日…
ベッドから起き上がり、窓から差し込む朝日に身を晒し、明るい世界を見ている香里。
「うふっ、こんな
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