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がいる間は大丈夫らしい。
そこで、ふらつきながら歩いて行く祐一と父親を見送るが、エレベーターのボタンは何故か上行きだった。
(へえ、ずっと栞ばっかりって思ってたけど、あたしの時でも泣いてくれるんだ)
屋上の物干場の一角は、見舞いに来た父が我慢できなくなった時、泣きに行くポイントだった。
エレベーターに乗り、他の患者も乗っている中で軽く会話する二人。
「昨日は、あいつが我がままを言って、大変だったんじゃありませんか?」
香里の一言が余程効いたのか、うっすらと涙を浮かべ、ポケットの中を探る父。
「えっ、ええ、まあ、一人になるのが怖かったらしくて、その割には皆さんに「来ないでっ」て言うし、どうしてやったらいいのか分からなくて」
そう答えながらも、やっぱり気が気でない祐一、今度こそ屋上でパンチでグーに違いないと身を固くする。
祐一妄想中…
「昨日は、どんな事をしたんですか?」
屋上でタバコに火を着け、穏やかな表情で語りかけて来る香里の父。
「(ビクッ)はっ、まず、手を繋いだり、足のマッサージとか、お嬢さんの言う通りに」
また怖くなって医療用語で解説する祐一。
「そうですか、他には?」
「はあ、心臓マッサージとか、人口呼吸とか、他の所も」
「具体的には?」
「腰とか、背中とか、胸とかも」
涙混じりの悲しい声で答えちゃう、ピンチの祐一クン。
「じゃあ、注射もしたんですね」
栞のように、下を向いて斜線一杯の真っ黒な顔をして、目だけ光らせる父も、何故か医療用語を使っていた。
「……はい(ぐっすん)」
自分の行く末を思い、暖かい涙が頬を流れて行くのを止められなかった。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ
そこで、地の底から湧き上がって来る、何かの音が聞こえた。
「このボケがっ! 人の娘二人とも傷もんにさらしゃあがってっ! 娘の命掛かってなかったら、今すぐ簀巻きにして川泳がしたるぞっ! オホーツク海の水はまだ冷たいんどっ、うらぁっ!!」
「はっ、はわわ〜〜〜っ!」
父親の急変に驚き、屋上を逃げ回る自分を想像せざるを得ない祐一クンだった。
妄想終了…
(ううっ、隣の人を屋上の日光浴に誘っちゃおうかな?)
香里ちゃんパパにもらい泣きしたのか、涙を浮かべている祐一。
屋上に着くと、幸い洗濯に来た付き添いの家族も多く、最悪の状態は免れた。
「実は、香里が産まれる前、女房が産むのを渋りましてね」
「はあ…」
二人きりになると、話を切り出されるが、歩きながら次第に人気の少ない場所へ誘導されて行く。
(逃げちゃだめだ、逃げちゃだめだ、逃げちゃだめだ)
某シンジ君のように繰り返し言ってみる。
「自分みたいに、体の弱い子が出来たら困るって言ってたんですが、私が無理を言って産んでもらうと
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