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KANON 終わらない悪夢
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だめなの、栞も病気の時はバニラとかイチゴ味とか、子供用しか受け付けなかったの。 それで鞄の中見たらバナナ味が入ってた、母さんが入れといてくれたのね」
 まるで末期の真琴のように、歯磨き粉が辛いと言う香里。

「美坂さん、検温です」
 そこで、元気に歩き回っていた香里を見たのか、看護婦が入って来た。
「はい」
 立っていた香里はベッドに戻り、体温を計り、問診を済ませる。
「え〜、36度7分、熱は無いようですね」
「じゃあ、退院したいんですけど」
 検温と点滴しかできない看護婦に、平然と言い切る香里。
「そんな、まだ無理よ、2,3日は様子を見ないと」
「3ヶ月しか無いんです」
 看護婦の顔色が変った。
「看護婦さんならどうします? 自殺しますか? それともやりたい事をやってから死にますか、私は1分1秒も無駄にしたくありません」
「そんな、私には決められないから、先生に聞いてきますっ」
 朝一番で看護婦を撃墜して、泣かせてしまった香里、まるで姑のようであった。
「ひでえ」
「だってあの看護婦、私達を変な目で見てたのよ、それもシーツや寝巻きまで汚れてないか調べたりして」
 どうやら女にしか分からない失礼な態度があり、気分を害したらしいが、昨日の夜、病室に電話コーナー、トイレやエレベーターで、あれだけ派手にやらかしていれば、気が付かない方がおかしい。
「お前、女相手なら容赦無いな」
 昨日は事有るごとに弱音を吐いて、自分の前で何度も泣いていた女と、目の前の気の強い女が同一人物だとは、とても信じられなかった。

 やがて婦長らしき人物が、先程の看護婦と病室に戻って来た。
「美坂さん、まだ安静にしていないと、また倒れるかも知れませんよ、今日はこのまま横になっていなさい」
「確か「持って3ヶ月」ですよね? だったら今日かも知れないですし、明日かも知れないんですよね」
「そ、そんな事ありません、誰がそんな嘘を」
 目を泳がせて言葉に詰まる婦長は、隅の方で死にかけている祐一を睨んだ。
(うっ)
「家族に教えて貰いました、妹の時は私が告知したんです」
 何でも隠し通す日本では、まだまだ告知は浸透していなかった。
「何をそんなに急いでるんです? ご家族やお友達で間に合わなければ、私達でしてあげます、貴方は自分の体を治す事だけ考えていればいいんです」
「そうですね、まず役所に行って相談して遺言を書いて、やりたい事をやって、欲しい物を買ってから死にます」
 面と向かって死ぬ話題ばかり出され、とても嫌な顔をしている看護婦達。
「先生を呼んで来て」
「はいっ」

「今日ぐらいゆっくりできないのか? 俺だって一回着替に帰って、シャワーだけでも浴びたいし」
「じゃあ家に来る、それとも一緒に行って、二人でお風呂がいい?」

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