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あれから、髪を切った香里は、さっぱりしたように、手で髪をすくっていた。
「こんなに短くしたの小学校以来かしら? でも今日は散々ね、倒れたり、髪は切られるし、処女まで無くして妊娠させられそうだし」
「俺のせいか?」
「ふふっ、そうよ、もう責任取ってもらうしか無いわね」
「おいおい」
その時は、冗談でも言っている口調だった香里。祐一もそれほど重く受け止めていなかったのが間違いの始まりだった。
そして今度こそ、「車椅子ラブラブ二人乗り」で、電話コーナーに向かう二人。
「名雪が出るかも知れないけど、喧嘩するんじゃないぞ」
「ええ」
もう夜の10時を過ぎていたので、名雪なら寝ているに違いない、祐一は時間をかけ、ゆっくりとプッシュしていた。
プルルルルッ、プルルルルッ、プルルルルッ
『はい、水瀬です』
「もしもし、名雪か」
『うん、祐一?』
さすがの名雪も、香理が心配で寝付けなかったらしく、祐一としても用件だけ言って、すぐに切ろうと思っていた。
「ああ、まだ病院にいるんだ、今日は泊まって行くから、秋子さんにもそう言っといてくれ」
『うん』
そこで、家族でも恋人でもない祐一が残っているのに、疑問を感じる名雪。
『どうしたの? 栞ちゃんも調子悪いの?』
「いや、帰って(母親に倒されて?)寝てるはずだ、じゃあまた明日な」
「待ってっ、香里は?」
肝心の報告を忘れていた訳では無いが、言えば全て嘘になる。あえて勢いでごまかそうとしたのが仇となった。
「ああ、大丈夫だ。右手も足も動くようになったってさ、さっきも栞に電話して喧嘩してたぞ」
早々と電話を切るつもりが、名雪のペースになり、どんどん挙動不審になって行く。
「祐一、嘘ついてる、じゃあ何で泊まるの、そんなに悪いのっ?」
「違うって、香里も一人だと寂しがるし(あっ!)」
失言に気付いて、二人っきりなのを隠そうと言い訳を考える。
「おばさんが着替えを持って出直してくるまでは、ここにいる 「名雪……」 つもりだ」
何とか言い繕った所で、香里が受話器に近付いて声を出してしまった。
『香里? そこにいるの』
名雪でもその状況は変に思えた。香里の声が祐一と同じ距離、まるで唇が触れ合うような場所から、涙に濡れた声が聞こえたから。
「ああ、病院だから幽霊でも出たら怖いらしくてな、ここまで一緒に来てるんだ、笑ってやれ、ははっ」
乾いた笑いでごまかしたつもりだったが、香里は頬をぴったりと着けて抱き付き、片手でどうにかできる状況でも無かった。
『代わって』
「ああ」
名雪の言葉は重く、有無を言わさない重圧があった。
「もしもし、名雪」
泣いて、叫んだ後の、ガラガラの声で電話に出た香里。
『どうしたの、その声っ? だいじょうぶ?』
取り合え
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