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「ああ、しっかり動いてるぞ」
そのまま動けなくなり、車椅子の上で抱き合っていた二人。
「うっ、うっ、ヒック」
「泣くなよ、ちょっとは良くなったんだろ、さっきはあんなに歩けたんだし」
「ええ、グスッ」
「俺が治してやるから、なっ」
「うんっ」
祐一の肩に顔を埋めて泣いている香里は、また弱々しく、小さく見えていた。
「なあ、お前の髪の毛って、すっごい良い香りがするな、香水でも着けてるのか?」
嘆く香里を見ていられず、話題を変えようと、髪の香りを誉めてみた。
「さあ? シャンプーの匂いでしょ、でも点滴が始まったら、栞みたいに薬の匂いしかしなくなるわ、今のうちね、気に入ったのならあげる」
「あげるって?」
「病院でこんな長髪、邪魔なだけよ、短く切るからその先はあげる」
「もったいないだろ、ここまで伸ばしたのに」
手元にあった引出しの中から髪留めを出し、首の後ろで束ね始める香里。
「ここで切って」
そう言って栞と同じぐらいの長さで手を当てる。
「栞とお揃いになっちまうぞ」
「じゃあこの辺?」
「そりゃ、ワカメちゃんだ」
その名前で、まだ幸せだった昼間を思い出す。
(あのままだったら良かったのに、でも香里のこんな所、見れなかったかもな)
香里を起こして椅子に座らせて、前に鏡を置く。
「今日はどのようにカット致しましょうか?」
美容師のようなセリフを言い、おどけて見せる祐一。
「ふふっ」
そこでようやく香里に笑顔が戻った。
「貴方の好きな髪型でいいわ」
「角刈りか?」
「そうね、放射線か抗癌剤でも使われたら、全部抜けるかもね、それでもいいわよ」
男前が上がるとか言って、からかう予定が、思いっきりマイナス方向に振られ、落ち込まされる。
「バカ」
「じゃあ、生徒会カット」
結局、肩に掛からず、うなじが見える程度の「生徒会推薦カット」に決めた。
「大和朝廷」
長い髪を束ねて両側に持ち上げ、古代の髪型を再現してやる。
「もうっ」
「ちょんまげ」
「いいかげんにしてっ」
「では、ついに香里関の大銀杏にハサミが入ります」
「人生も引退ってわけね」
「おい……」
ナーバスな香里は、細かい事にもすぐ反応してしまう。
「さっき、処女は引退しただろ」
「いやらしい、すぐそっちに持って行くんだから」
胸元と足を合わせて隠す香里、羞恥心が戻ったので、少しは元気が出たように思えた。
「ほう、これだけの物をお持ちなら、肩がこるでしょう」
後ろから手を回し、「肩こりの元」を持ち上げてマッサージしてやる。
「きゃっ、やめて、あははっ、くすぐったい〜」
嫌がりながらも楽しそうに笑う香里。そこで、わきの下が弱点と見抜いた祐一は攻撃ポイントを変えた。
「ここも凝ってますね〜
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