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れてコソコソするなんて相に合わないの、名雪にも電話しておこうかしら?」
今も自分の心配をして泣いているはずの親友に電話して、喧嘩を売るつもりらしい。
「もういいって、元気になったんなら帰るぞ、親に来てもらえ」
自分の役目は終ったので、家族と過ごせる時間を少しでも増やそうとしたつもりだったが、香里はまた顔色を変えた。
「まさか帰る気なの? 私一人残して…… 窓か屋上から飛び降りるかも知れないわよっ」
物騒な事を言って、帰そうとしない香里。
「ふざけるなよ、じゃあ、そこで何か買って来る、何か欲しい物あるか?」
すると香里は、まだ痛む下腹部を押さえながら、こう答えた。
「祐一の赤ちゃん」
「バカ」
「ふふっ、じゃあ祐一」
病院の電話コーナーで、後ろから抱き付いたり、じゃれあっている二人の姿は、普通のカップルのようにも見えた。
「お前なあ? いいかげんに」
振り向いて怒ろうとした祐一だったが、香里の両手は震えていた。
「帰らないでっ、一人にしないでっ」
またさっきと同じ調子に戻って、弱々しい涙声を出しながら、凄い力でしがみ付く香里。
「あ、ああ」
手を取って、正面に引き寄せると、震える体を支えながら病室に戻った。
「ぐすっ、ヒック」
病室に入ると、また祐一の胸で泣きじゃくる香里。さっきから躁鬱を繰り返しているので、かなり危険な状態らしい。
「どうしたんだ? 電話ならあんなに元気だったのに」
「わからない、うっ、家族だったら、グスッ、平気なのに、貴方がいないと、貴方の前だと駄目なのっ」
(これも可愛いじゃないかっ)
女の涙に騙され、また心を鷲掴みにされる祐一。
「今日は一緒にいるから、もう泣くなよ」
「うんっ」
あの香里が、気取らない返事をするのも珍しかったが、体を預け、子供のように甘えているのは、もっと珍しかった。
しばらく休むと落ち着いたのか、ベッドで横になって安静にしている香理。しかし、不安なのか治療の為なのか、祐一の手を取って左胸の上に置き、外されないよう両手でしっかり押さえ付けていた。
(あの、モロに触ってるんですけど?)
布団の下では、明らかに手の中に柔らかい感触があり、ある場所はそれに反比例して硬くなっていた。
「これも栞が言ってたの」
「は?」
「倒れても左手と心臓だけ、ちゃんと動いてるのは、「それは祐一さんが触った手だからですよ」だって」
また香里のモノマネを聞いてしまった祐一、それはもう涙で枯れた声だったが、まだ少し似ていた。
「あの子の時は、倒れてから何日も苦しかったのに、あたしだけ座ったり話したり、その……」
違う所も元気だったのを思い出し、顔を赤らめる香里ちゃん。
「ああ、明日も検査して貰え、余命70年って言ってくれるぞ」
「うん、
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