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って言われた人間の顔、見た事ある?」
「いいや」
「こんな顔よっ!」
布団をどけて体を起こし、涙に濡れた顔を見せる香里。そこにいつもの気の強い女の姿は無く、弱々しい生き物が死の恐怖に怯えていた。
(香里って、こんなに小さかったか?)
長身で立派な体をしていたはずの香里は、心と一緒に体まで小さく見えた。
「あたしっ、あの子を見なかったんじゃないっ、怖くて見れなかった! あの時の目が怖かった、あの時の表情が怖くて、もう二度と見れなかった!」
以前の表情かと思ったが、怖いとは思えなかった。しかし香里だけは、あのあどけない顔が恐怖に歪む、恐ろしい瞬間を見てしまったらしい。
「いいや、お前は死なない、絶対に死なせないっ」
震える体を抱き寄せ、また頭を撫でてやる。
「怖くないの? グスッ、私の顔、気持ち悪くないの?」
もう一度観察してみても、そこにはいつもより可愛くなった香里がいた。
「ああ、学校で栞以外の女と話してた時の方が、よっぽど怖かったぞ」
「ふっ、うふっ」
冗談だと思ったのか、涙ぐんだまま少し笑う香里。
(本気なんだけどな?)
「うっ、死にたくないっ、まだ死にたくないっ、ヒック、少し前までは何も無かったのに、グスッ、今は貴方がいるからっ!」
全てが終るまで涙をこらえていた栞と違い、感情を一気に爆発させる香里。
(姉妹でも、こんな所は逆なんだな)
そんな事を考えながら、濡れる瞼に唇を付け、涙を舌で拭い取った祐一。
「だめっ、うつったらどうするのっ」
香里の病気は伝染病や感染症では無かったが、普通の感覚なら病人への接触は極力避けるはずだった。
「いいさ、それに」
「?」
鼻の先と先を合わせ、眼と眼を合わせるようにして、穏やかな表情で語りかける。
「お前とだったら、地獄に落ちてもいい」
その時は同情や哀れみではなく、本気でそう思えた。
「……バカ」
泥臭くても、心のこもった殺し文句で魂を奪われ、視線を逸らせ、焦点の定まらない目で遥か彼方を見ている香里。
そこで、お互いの目を見た時、何かが壊れる感じがした。妹の恋人、彼女の姉で、いとこの親友など、世間体や常識など、二人を止めるブレーキは吹き飛んでいた。
((あっ、もう、だめ(だな)))
今までの震えが収まり、急に力が抜けた二人。そして、折れるほど強く抱き締め、どちらとも無く口を寄せ、まだ栞ともした事が無いような、唾液の交換が始まった。
「うっ、はふっ」
頭を押さえられ、唾液を吸われ続ける祐一。動物は命の危険を感じたとき、子孫を残そうとすると言われるが、二人の行為もまるで本能の命令のようだった。
「うっ、むうっ」
メスの方は、目の前のオスなら自分に無い免疫で子孫が生き残り、もう一匹のオスは自分の免疫を、体液からメスに
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