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の調子が良くなるなら、香里が好きな奴の方がいいだろ、俺にはお前がいるから」
普通の女なら喜びそうな言葉を遮り、栞が答える。
「お姉ちゃんが好きな人って、祐一さんなんですよ」
「ええっ?」
「お姉ちゃん、最近成績が下がったんです。でもそれは私が治って嬉しかったとか、家で二人で遊んでたからじゃないんです。授業中もずっと祐一さんだけを見て、ノートを取っている所も、ペンを回して退屈そうにしている所も、全部教えてくれてたからです」
今まで栞を気にしてか、愛も恋も無かった香里だが、妹の命を救った相手には素直に好感を持てた。そして妹が喜ぶだろうと、その日の祐一を観察して、仕草や行動を話していた。
「ノートも取らないで、祐一さんの横顔をスケッチした絵も見せてくれました」
ただ、その絵が自分より上手かったのか、ご機嫌斜めの栞。
「休み時間に何を話したかも教えてくれました。あっ、お姉ちゃんがモノマネする所見た事ありますか? 家では祐一さんや名雪さんのまねをしてくれるんです」
きっと男言葉で喋ったり、「うにゅう」とか「くーー」とか言っているらしい。
「だからもう、お姉ちゃんの頭の中は祐一さんで一杯なんです、勉強なんか手に着かないぐらいに」
そう言って、また以前の寂しそうな表情で笑う、運命を受け入れたような瞳で。
「もし、そうだとしても」
また祐一の否定の言葉を遮るよう、耳に口を近付けて小声で話す栞。
「お姉ちゃん、やっぱり私と同じ病気でした。持って後3ヶ月だそうです」
震える声で医者の宣告を教えられるが、家族ではない祐一には、重過ぎる言葉だった。
「私も昔は気功とか、祈祷に行った事もあるんです、でも少しだけ体が暖かくなったとか、その程度でした」
祐一にも、藁にも縋る思いで、色々な所に娘を連れて行った両親の姿は想像できた。
「でも祐一さんは違いました、その何倍も、何十倍も凄かったんです。会って話しているだけで元気になって、手が触れただけで体が熱くなるんです」
「だからそれは、俺とお前が」
さすがに両親の前で「愛し合っているから」とは言えない祐一。
「そうじゃないんです、お母さん? 祐一さんの手を握って、どんな感じがした?」
栞の目線の先には、汗びっしょりになって、震えている母親がいた。
「ああ、お前が言った通りだね、体が熱くなって、何だか燃えてるみたいだよ」
(暗示じゃないのか?)
「お母さんにも持病があるんです、これから検査がありますから、良くなってたら信じて貰えますか?」
疑問を見透かしたように、その問いかけは家族ではなく、祐一にだけ向かって言われていた。
「え? ああ」
(もう二人共、信じてるんだな)
栞に何を吹き込まれたのか、両親ですら祐一に何かの力があると思っているように見えた。
「でも、
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