第八章
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そしてその二日にだ。彼女はどうするかというと、
「ずっとこのお店にいるから」
「それで飲むんだ」
「ええ、どんどん飲むわ」
「泳ぐことは?」
「水着は持って来たけれどね」
だがそれでもだというのだ。それは。
「もうどうでもいいから」
「飲むのかよ、ずっと」
「実際ニースに行っても泳ぐつもりはあまりなくてね」
「飲むつもりだったのかよ」
「休みなら飲むのが一番じゃない」
何処までも酒好きな麻里奈だった。
「じゃあ飲むわよ。とことんまでね」
「やれやれだよ。まあそれでもさ」
「それでも?」
「姉ちゃんが機嫌なおしてくれて何よりだよ」
このことにはほっとした、かつ安心した笑顔で言う博之だった。
「じゃああと二日。楽しんでね」
「そうさせてもらうわ。じゃあまた」
ここでまた、だった。麻里奈は一本開けた。二本目もまただった。
そしてまた一本頼んで夜の潮風を受け波音を聞きながら微笑んで飲むのだった。そして。
それからも飲んだ。飲んで飲んで飲み続けて残り二泊三日も楽しんだ。そのうえで仕事場に復帰すると。同僚達にこう言われたのだった。
「で、ずっと飲んでたのね」
「旅行の間ずっと」
「湘南の海で」
「そうなの。もう飲んでばかりだったわ」
こう答える麻里奈だった。満足した顔で。
「甥っ子は何か女の子と遊んで好き勝手やって私はそうしてね」
「前半ビール後半ワインね」
「海に来たのに泳がすに」
「そうしてたの」
「そうそう。まあ最初はむっとしたけれど楽しかったわ」
こう言うのだった。
「次はニースに行きたいけれどね」
「というかあんた飲めればよかったんじゃないの?白ワイン」
「冷えたワインね」
「まあそうかもね。じゃあもうニース止めようかしら」
同僚達の言葉にふと考えを変えた麻里奈だった。
「王子様がいなくても楽しめるってわかったし」
「結局そっちなのね」
「飲む為にニースに行きたかったね」
「みたいね。いや、人生あれよね」
ここでわかったのだった。麻里奈は。
「美味しいお酒がある、それに尽きるわ」
「で、そこに景色や男の子が来る」
「そうなるってことなのね」
友人達も呆れながらわかったのだった。人生の第一の楽しみとは何か。
それは酒だった。美味い酒がある、バカンスもそれを楽しむ為にあるものだということがだ。
そしてそのことがわかった麻里奈は以後ニースニースとは言わなくなった。しかし彼女は以降酒豪として知られることになった。特に冷えたワインを好む。
冷えたワイン 完
2012
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