第一章 天下統一編
第十話 軍議
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三月二十七日、俺は秀吉率いる本隊に従軍して駿河国三枚橋城に到着した。
三枚橋城は駿河国と伊豆国の国境に近くを流れる狩野川の右岸にある。川を越え伊豆国に入れば北条領である。秀吉は徳川家康がいる長久保城に移動し、今後の方針を話し合うために軍議を開いた。この軍議に俺も呼ばれている。
本来ならば俺みたいな初陣の旗本が参加できる場所でない。だが、秀吉の命令である以上、俺に拒否権はない。秀吉が俺に万石級の軍役を課し与力をつけた理由が見えてきた。秀吉は俺に備を組織させることで独立した部隊として動かすつもりなのだろう。この時代の軍隊は備が軍事行動を起こす最小の単位になる。備は槍兵・銃兵・弓兵・騎兵といった部隊で形成されている。この備単位で組織行動を取る。備は侍大将を頂点とした軍隊だ。
俺は単独で備を組織できる兵と武器を有している。しかし、俺は表向き五千石の旗本だ。本来なら俺は誰かの下に付き備の一部隊になるはずだった。しかし、それでは秀吉は都合が悪いのだろう。だから、俺に与力を付け備を率いることができるようにした。その上、俺には単独で備の準備を石田三成を通して命じる念の入れようだ。
秀吉がここまで俺にお膳立てをする理由。秀吉は俺に北条攻めで名を上げて欲しいのだろう。だが、あまりに露骨にお膳立てはできない。あくまで俺が自らの才覚で備を組織し、秀吉がその才覚を認め支援したという呈を取りたい。何故、秀吉はそんな回りくどい真似をしたのか。あまり考えたくないな。
俺は頭を巡る思考を振り払った。秀吉の思惑などどうでもいい。俺は没落しないように出世してやる。
俺が軍議の席上に足を踏み入れると大勢の武将達が集まっていた。秀吉の近い場所には織田信雄、徳川家康、豊臣秀次が座っていた。
俺は上座に居る豊臣秀次に視線を向けた。豊臣秀次は関白から下賜された朱に染め抜いた陣羽織を身につける俺のことを面白くない様子で凝視していた。俺は彼と視線が合うと、相手の態度など意に介さず豊臣秀次に対して頭を下げ挨拶した。
豊臣秀次からは俺の陣羽織の背中に五七の桐紋が刺繍されていることは見えないはずだが、この陣羽織のことは彼の耳にも入っているのだろうか。俺は自らが羽織る陣羽織に視線を落とした。知っていてもおかしくないな。ここまで道中は陣羽織を着て移動してきた。彼の家臣の誰かに見られたのかもしれない。しかし、格下の俺に嫉妬するとは豊臣秀次も案外器が小さいな。向こうは従二位権中納言、豊臣家の公達。俺は受領の従五位下相模守というのに。
俺はうんざりして視線を動かし徳川家康に止まると彼は笑顔を返してきた。対照的だ。徳川家康と俺の存在に余裕を見せることができない豊臣秀次との差に、豊臣秀次の器の小ささをまざまざと感じた。
俺は豊臣秀次と関わるつもりはない。この
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