第80話 火種
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天草はすぐに島原へ飛んだ。それは、キリシタンの中から西郷暗殺の張本人を仕立あげるための人材を確保するためだった。
島原は江戸時代、キリシタン信教が盛んであった。が、幕府はそれを許さず、キリシタンを弾圧した。
現在もキリスト信教は息づいている。が、ゆえに、天草四朗は島原では有名で知らない人はいない。
その英雄に頼まれれば命を惜しまない信者もいないわけではない。が、史実によれば、政府は薩摩に密偵を送り込んでいた。 そして、その密偵は捉えられ、西郷暗殺を自白したとある。
「四朗様、この者が密偵の役割を果たすと申しております」
年老いた男が、一人の若者を連れてきた。
「汝は主のために命を捧げることができますか?」
天草は、優しく澄んだ声で男に尋ねた。
「はい。私の命で主に尽くせるものであれば、喜んで捧げましょう」
男は天草に跪き、額の前で両手を祈るように組んでいった。
「汝に神のご加護を。アーメン」
天草は十字を切り祈った。が、その顔には悪魔のような笑みを浮かべていた。
天草とその男は、すぐに大山の元へと向かった。
天草は火種となる男を大山に紹介した。
男は、五平治という名前だった。
「さて、天草君。この男は信頼できるんでごわすか?」
大山は、体格はいいが気弱そうな五平治を上から下へと見つめて言った。
「心配はいりませんよ。深紅に信仰を持っている男です」
天草はにこりと微笑んだ。
「では、本題に移りましょう。まずは、大山様、政府軍が鹿児島にある武器庫から武器弾薬を持ち出そうとしていると情報を流してください」
天草の計画を大山は頷きながら聞いている。
「そこで、この五平治の登場です。武器弾薬を奪ううえで西郷さんを暗殺しようとした密偵を堪えたということにするのです。そして、あとは五平治をイエス様のもとへ送り届ける」
「なるほど」
大山は大きく頷きにやりと笑った。
「新政府に不満をもっている若者達です。あっという間に反旗の狼煙があがりましょう。さすれば、西郷殿も立たざるを得なくなるでしょう」
「わかりもうした。早速、手筈を整えるようにしもんそう」
大山は天草の策略にのることにした。確かに天草四朗時貞という男は随分前に死んでいる。今、話している男が、天草四朗であるかどうかは解らない。が、大山は自分の野心を成就させるためには天草の策にのってみることが最善だと考えた。
戊申最後の戦いと言われた函館戦争。そして、榎本は、北海道に新しい政府を立ち上げようとした。今度は、この九州に大山政府を立ち上げてやると。
それには、西郷隆盛という人身御供が必要だった。
大山はにやりと笑った。
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