戦場ヶ火
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を為す…かもな」
「祟らない可能性もあるのか!?」
「分からない。結界を切ってみないことにはねぇ…玉群の家を存続させること、即ちこの結界を維持し続けること、なわけだ」
明け方のような薄紫の空が、俺たちの頭上を覆っていた。大分薄くなった人魂の群れを見渡していると、ごう…と一陣の風が俺と奉の髪を弄った。
「玉群は、当て字だ」
もう一度俺に振り向き、奉はにやりと笑った。ずっと奥の方に、もう一つの提灯が見え始めた。
―――たまむら 正しくは 霊群 と記す。
救われない霊が群れ飛ぶこの一帯は、いつしか霊群と呼ばれるようになった。らしい。
それを先祖は『玉群』と云い替え、己が苗字とし、奉と契約して全てを闇に葬ったのだ。
「なら、そのうち誰かが奉との…契約…を切ると云いだしたら、お前はどうするんだ」
慎重に言葉を選び、俺はその問いを投げかけた。もう一つの提灯に向かって歩きながら、奉は事もなげに答えた。
「ここを去る。結界はそのうち綻びるだろう」
身も蓋もない。
「…実際、居たよ。契約を切ろうとした奴」
「…どうして切らなかったんだ」
「子供が出来たから。…面白いこと、教えてやろうか」
俺は『最初の子供』として生まれたことはない。奉はそう続けた。
「守るものが何もないうちは、素直にこの家の在り方について疑問を持つんだよ。明らかに歪んでいるからねぇ。だが自分に、守らなければいけないものができると、考え方が変わる」
言葉を切り、奉は何かを思い出すように薄い空を仰いだ。
「契約終了を切り出してきたそいつも、そうだった。長男が生まれた途端、俺に頭を下げて来たよ。…契約を切ってみなけりゃ分からない。だが、自分たちの子供を押しつぶすかも知れない災厄の種は、確かに在る」
「…俺なら、切らない。既に居る子供の安寧を取る」
「若くないねぇ」
くっくっく…とさも楽しげに奉は笑う。
「だからねぇ…何か知ったなら、だが。…忘れてやれ」
「知ってたのか!?」
「……何を」
俺は何も返せず、黙り込んだ。…そうか、奉はもう知っていたのか。全てはあいつの掌の上か。…俺は妙に、ほっとしていた。
そして忘れてやれ、か。妙なところで奉も、兄貴なんだな。
「あの『なりそこない』は、どうなるんだ」
「さあねぇ」
「また供物をあげてもいいか」
「―――怖くないのか…変わっているねぇ、お前」
お前が云うな。
「はん、互いを食い合う人魂とか、自動的に祟る神とか…俺の周りは幽霊よりおっかないものばかりだよ」
いつしか足元は参道に変わり、朝焼けの境内に提灯を持って佇むきじとらさんの姿が見えた。
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