戦場ヶ火
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玉群』と墨で書かれた提灯が、俺の横でゆらめいていた。その光に怯むように、甲冑の男は2,3歩あとじさった。
「俺がここにいること、どうやって知ったんだ」
奉は小さく息をつくと、俺の腕を掴んだまま歩き出した。
「お前の親父から連絡があったんだよねぇ…お前が一晩中、帰らないと」
「一晩!?そんなに経ってたのか!?」
「面倒だし探したくないから『いい人の所にでも転がり込んでいるのでは』と適当に云っておいたんだがお前、『そんな相手はいない』と即答されたぞ。…どうなんだそれは、男子として」
「……くっ」
お前が人としてどうなんだ。そこは探せよ。
「―――ここは、何処なんだ」
歩きながらも俺は、闇が薄く、草の丈が短くなりつつあることに気が付いていた。お互いを喰い合う人魂の数も、ぽつりぽつりと減っている。
「参道の両側に季節の花を植えるのは、伊達や酔狂じゃあないんだねぇ」
時折脇をすり抜けていく人魂をものともせず、奉は真っ直ぐ歩き続ける。いつしか提灯を持つ奉の後に、俺が付き従うようにして歩いていた。
「あれは、結界よ」
その結界こそが、俺と玉群の契約の本質でもある。と、奉は続けた。
「…もうずっと昔のことだ。ここはある戦の舞台となった」
それは地方の豪族同士の小競り合いの一つで、書物に残るような大きな戦ではない。歴史的な意味も大義名分も希薄な戦だった。だからこそ、それはお互いを徹底的に蹂躙する消耗戦だった。
「そこでお前らの云うところの『人道にもとる』行為が行われたらしい。少なくとも、当時の戦ではありえなかったような非道がなされた」
「どんな?」
「お前が知る必要はない」
奉がきっぱりと云い切った。こういう時はいくら食い下がっても無駄なのだ。俺は黙って提灯を追った。
「敵も味方も、苦しんで死んだ。その恨みの念は、当時のいち豪族の家系に集約された」
「それが、玉群?」
くくく…と小さく笑い、奉は振り返った。口元に浮かんだ嗜虐の笑いを、提灯の薄明りが照らしていた。
「見たろ、幾多の魂が群れ飛ぶさまを。…あいつら、もう自分が誰なのか、何の為に争っているのか、どうして玉群を恨んでいるのか覚えてはいないのだよ。ただ結界の中で互いを喰い合う『戦場ヶ火』へとなり下がった。お前が声を掛けたのは、そいつらのなりそこないだ。…いるんだねぇ、あの中でまだ正気を喪っていないのが」
「もとは皆、彼のようだったのか」
「なに、すぐに堕ちたよ」
事もなげに云う。幾千の、幾万の夜を互いを喰い合いながら過ごした彼らはどんな想いでいたのだろう。堕ちるより救いはなかったのだろうな。そんな魂がこの結界とやらの中に無数に居るなど。胸が苦しくなってきた。
―――玉群は、一体なにをしてしまったんだ?
「この結界が切れれば、こいつらが一斉に玉群に祟り
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