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霊群の杜
戦場ヶ火
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だ。…これは。


――人魂!?


うまく悲鳴が上がらず、呻き声が出た。それに反応するように、ゆらめいていた人魂がひた、と動きを止める。俺は咄嗟にしゃがみ込み、草叢に埋もれた。人魂の一つが、揺らめきながら俺の周りで弧を描く。へぇ、人魂って意外と長いんだ、もっと丸いイメージだったなぁ…などと呑気なことを考えようとするが、全身が瘧のように震えるのは止められない。
やがて俺に飽きたのか、人魂はふぅ、と俺の傍を離れ、薄赤い人魂の方へすいすいと泳ぐように進み…
赤い人魂を、切り裂いた。
「ぐぶ…」
必死に口を押さえたが、げっぷにも似た悲鳴もどきが口元から洩れた。
切り裂かれた人魂は、生々しい血飛沫を撒き散らしながら消えた。それに呼応するように、無数の人魂が互いを喰い合うようにぶつかり合い、絡まり合い始めた。長い尾が俺を掠めるたびに、血飛沫が降りかかるたびに、小さく悲鳴を上げるが、奴らはもう俺の事など見えていない。ただお互いを貪ることに夢中になっている。
月明かりの下で繰り広げられる奇妙な惨劇。…これやばいやつだ、ここから出なければ、離れなければ。だがどうやって!?
俺は注意深く周りを見渡した。草原を駆け回り、お互いを消し合う人魂の群れの中で、一つだけ動いてない人魂がある。色も少し、違う気がする。なにより…その灯りの周りの草が少し照らされている、気がする。俺は万が一にすがるように、その人魂に向かって歩き出した。


ぐい、と後ろから肩を掴まれた。


生温かい液体が、じわりと肩口に染みた。掌に傷を負っているのだ。赤い手は、さらに俺の肩を掴み引き寄せ始めた。
―――お前は、どちらだ。
荒い息遣いに、たどたどしい言葉。本当はもっと力を込めたいだろうに、引くのが精一杯なのだろう。恐怖よりも憐憫が先に立つような瀕死っぷりだ。俺はつい、振り向いてその腕を支えてしまった。
「大丈夫…ですか?」


俺の肩に手をかけて立ち尽くしていたのは、朱を浴びたように真っ赤な武者だった。


少し古い時代なのだろうか、見たことのない型の甲冑を身にまとっている。勇壮な甲冑姿の割には大分小柄で、少し驚いたような表情で俺を見上げている。
「痛かったでしょう。何処かに、貴方を祀る塚はありますか?」
こんな状況だが、俺は少し、ほっとしていた。
人の霊なら見慣れている。分かりやすい。…甲冑の男は、小さく首を振った。俺は鞄に入っていた飴をそっと掌に乗せると、これは貴方へのお供えですと呟いた。男は、ぐいと顔を上げて俺を見た。…底の知れない、虚ろな双眸が在った。
「この…斬り合う光は、貴方と同じ者達ですか?」
「何をしている」
彼の答えを待っていると、突如後ろからグイと腕を掴まれた。
「……奉?」
動かない光が、俺の真横に差し伸べられた。『
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