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威萌宇斗十二制覇
03威萌宇斗 鞠絵
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凛鈴さんも「Q熱って、うつ病も起こすから、治ったらもっと楽しくなれるよ」と仰っていましたから。
 そして、その日はやって来ました。
「鞠絵ちゃん、これはミカエルから抽出したウィルスの中でも、毒性の無さと排他性だけは最高の奴なんだ、このエアロゾルを吸い込めば、マスクも取れるよ」
「はい」
 凛鈴さんの表情は真剣でした、それにこの方が兄上様の表情を曇らせるような失敗をするはずがありません。
「もうあたし達で試したから心配しないで」
「えっ?」
 何故そこまで? 私のような役立たずのために、凛鈴さんのような方を危険に晒す必要があったのでしょうか? 
「それにアニキも、咲耶ちゃんも、春歌ちゃんも、衛ちゃんも、元気なみんなは自分から手伝いたいってテストしてくれたんだ」
 兄上様や皆さんまで… また私にできたのは枕を濡らす事だけでした。 でも今度は生きたい… 元気になって皆さんのお役に立ちたい。 私は全てをお任せして、凛鈴さんが吹き掛ける霧を思い切り吸い込みました。

 数日後…
「ミカエルッ!」
「ワウッ!」
 久しぶりに素肌で触れ合うミカエル、その日以降、私が頻繁に発熱したり、他の病気にかかる事は無くなりました。 凛鈴さん、ありがとうございました。
 それから数週間、日本では何の報道もされませんでしたが、アメリカでは「弱感染症による感染症の根本治療の可能性について」の論文が、医学雑誌に投稿されて話題になったそうです。
 何でもこの方法を応用すれば、「抗生物質を使わずに感染症と戦える」そうで、攻撃性の強いウィルスを一時的に植え付けて、病原菌だけを倒した所で元に戻せると言う、大変な発見なのだそうです。
 もう私とはかけ離れた世界の話でしたが、二人きりになれた時、思い切って凛鈴さんに聞いてみました。 どうして私などのために、ここまでして頂いたかを。
「あたし… ずっと鞠絵ちゃんが羨ましかったんだ。 熱を出したらアニキがいつも傍にいてくれて、みんなも色々してくれたり」
「えっ?」
「確かにアニキにも誉めて欲しかったけど、鞠絵ちゃんを治しちゃえば、もっとあたしを見てくれるかなって… あたし、鞠絵ちゃんほど美人じゃないし、こんな性格で変な奴だから、アニキにもそんなに大事にされてないし……」
 その言葉を聞いた時、恐ろしいとまで思えた凛鈴さんが、とても可愛く、また愛おしく思えました。 そして気付いた時には、その体に手を回して、しっかりと抱き締めていたのです。
「え? どうしたの? 鞠絵ちゃん」
 そうです、凛鈴さんも私のように、誰かをうらやみ、心の闇に怯え、劣等感に苛まれて涙する夜もあったんです。 この方も人の子であり、私の大切な家族、大切な姉妹の一人なのですから。
「ありがとう… 本当にありがとうございました」
「やだなあ、そん
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