大泥棒が鎮守府にやって来る〜会食編・その2〜
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さて、お次は五右衛門と加賀の注文に取り掛かるとしよう。2人の注文は日本酒。冷やで、という事はキリリとした淡麗な辛口の日本酒の方が良いだろうか。辛口の日本酒を飲むくらいなら焼酎を飲めばいいじゃないか、という者がいる。俺から言わせればそんな奴は酒を理解していない。
確かに辛口の日本酒は辛口であればあるほど純粋なアルコールに近くなり、焼酎の味わいに近付く。しかし近付くとは言え日本酒は醸造酒、焼酎は蒸留酒なのだ。
醸造酒であるが故の純度の高いアルコールの味わいに絡んでくる米の旨味、甘味。醸造による酸味、コク、香ばしさが複雑に絡まって、キレの後に心地よい『余韻』を楽しませてくれる。それこそが辛口の日本酒の良さだ。それを引き立たせるつまみは何か?俺個人が導き出した答えは「極端な味付けの料理」だ。抽象的過ぎて分かりにくいだろうから、もう少し詳しく解説しよう。
所謂『辛口の日本酒』って奴は純米酒・本醸造酒・生酒が多く、淡麗辛口で香りが控え目の物が多い。基本的に飲みやすく冷や、燗酒、常温で飲んでも味のブレが少ない。日本酒初心者でも飲みやすく、長く付き合える酒が多い。さて、ツマミの選び方だが『酒の味を引き立てたい』のか、『料理の味を引き立てたい』のかで変わる。
酒を主眼に置いて引き立てたいのなら、シンプルであっさりとした味わいの料理がいい。刺身や冷奴、洋食ならカルパッチョなんかも酒を引き立ててくれる。
料理の味わいを酒に引き立ててもらうならば逆にこってり濃厚な物がいいだろう。味の濃い煮物や焼き物、チャレンジとして洋食や中華に合わせてみるのも面白い。
問題はこの客が『酒』と『料理』、どちらを求めているのかが重要という事だ。五右衛門は見たまま侍のような出で立ちで、筋肉質ではあるが線は細い。粗食であると判断できる。こういう客は料理の味よりも酒の味を嗜みたい場合が多い。……よし、出す料理は決まった。
俺は冷凍庫から刺身のサクを取り出し、凍ったままで刺身のハネ切りで切り分ける。更にガスバーナーに点火して焼き目が付かないように炙り、半解凍の状態で皿に盛り付け。塩を上から振り、すりおろした山葵を添える。
「お待ち、『鮭のルイベ』だ。今回は伝統的なアイヌ料理風に仕上げてある。塩は振ってあるから、好みで山葵を付けてな」
そう言いながら五右衛門に手渡す。そして選んだ酒は『黒松 剣菱』。スーパーでも買える美味い辛口の酒の代名詞とも言える1本だ。
スーパーで買えると侮るなかれ。『剣菱』は蔵の持ち主が500年の歴史の中で5回も変わっている数奇な運命の蔵だ。しかし、その味はラベルに描かれた不動明王の剣の如く、ブレる事無く昔ながらの作り方を堅実に守っている。その特徴はなんと言っても、口に含んだ直後の焼
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