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真田十勇士
巻ノ七十三 離れる人心その十二

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「第一に考えたい」
「それは豊臣家あってであろう」
「そう思うか」
「そうじゃ、我等は何じゃ」
 石田は大谷の目を見て彼に問うた。
「一体」
「決まっておる、豊臣家の家臣じゃ」
「ならばじゃ」
「あくまでじゃな」
「豊臣家に仕えるべきだろう」
「その通り、わしも豊臣家の安泰はな」 
 このこと自体はというのだ。
「何があっても守る」
「そうじゃな」
「それはな、しかし」
「それでもか」
「第一に天下の泰平を考えたい」
 まさにというのだ。
「民達の為にな」
「そのことは当然じゃ」
 石田も民は大事にしている、佐和山においては彼は何よりも民を大事にしたこれ以上はないまでの善政を敷いているのだ。
 それだけにだ、石田はこのことにも大谷に即答したのだ。
「民を大事にせぬ政はない」
「その通りじゃな」
「そして共に豊臣家を大事にすべきじゃが」
「天下の為にな」
「しかしな」
 ここでだ、石田は大谷をいぶかしむ目で見て言うのだった。
「わしと御主では考えているものが違うか」
「そう思うか」
「違うか」
 大谷の目を見たまま彼に問うた。
「そこは」
「ふむ、そうであろうな」
「何が違うのかまだわからぬが」
「さっきも言ったがわしは泰平と民が第一じゃ」
「それは同じでもな」
「何かが違う」
「そうじゃな」
 こう二人で話すのだった、こうしたことも話してだった。
 今は別れた、だがこの違いが後にどうなるかは二人はまだ知らなかった。しかしそれ以上にだった。大谷は彼の屋敷に戻って石田から貰った茶器で茶を飲んでから一人呟いた。
「御主とのことも忘れぬ」 
 こう呟いたのだった、一人になった時には。


巻ノ七十三   完


                           2016・9・14
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