巻ノ七十三 離れる人心その十
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「その様なことがあるか!」
「巷の噂は、ですな」
「刑部殿が辻斬りをされているなぞ」
「業病を治す為にと」
「ご自身の」
「あ奴は辻斬りなぞせぬ」
絶対にとだ、秀吉は言い切った。
「ましてや己の為に人を殺めるなぞじゃ」
「決してですな」
「あの方はされませぬな」
「絶対に」
「そうした方ですな」
「そうじゃ、わしもあ奴の病は治ってもらいたい」
秀吉も願っていることだ、このことは。
「しかしじゃ」
「それを人を殺めてまでとは」
「何があろうとも」
「せぬわ」
大谷、彼はというのだ。
「この様な性質の悪い噂を広めるなぞ」
「一体誰でしょうか」
「誰が広めたのか」
「そんなことはどうでもよい」
噂を広めた者についてはだ、秀吉はいいとした。
「問題はこうした噂が出ていることじゃ」
「では噂を消しますか」
「そうされますか」
「噂を話しているものを見つけよ」
こう言うのだった。
「広めた者を探すよりもな」
「言っている者をですか」
「その者を見つけて」
「そして捕らえてじゃ」
そうしてというのだ。
「首を刎ねよ、わかったな」
「広めた者より言っている者ですか」
「その者を捕らえてですか」
「そして首を刎ねる」
「そうしますか」
「うむ、どうせ噂を言った者は小者じゃ」
秀吉の見立てではそうだった、何でもない者が思いつきで言ったのだ。
「現に大坂で実際に辻斬りの話はあるか」
「いえ、実は」
「そうした話はありませぬ」
「この大坂も悪人には容赦しませぬ故」
「泰平であります」
秀吉は治安も徹底させているのだ、悪者は何処までも追い捕らえて処罰する信長のやり方を踏襲しているのだ。
「ですから辻斬りなぞ」
「それは厳しく禁じていますし」
「今もやっておる者はです」
「調べましたがおりませぬ」
「実際にそうした話もありませぬ」
「たまたま下らぬ者がそうした話をしてな」
そしてというのだ。
「尾ひれなりがついて広まったのであろう」
「刑部殿のことと合わさり」
「そのうえで」
「そうじゃ、では噂の元を調べるよりじゃ」
それよりもというのだ。
「言っておる者をじゃ」
「見付けそのうえで」
「その首を刎ねる」
「そうしますか」
「そうせよ、よいな」
秀吉自らこう命じてだった、実際にだ。
この噂話をしていた町の浪人が二人捕まってだ、即座に首を刎ねられた。このことが他に噂を話していた者達を恐れさせてだった。
この噂話は消えた、大谷このことを聞いて急いで秀吉に拝謁して礼を述べた。
だが秀吉はその大谷にだ、笑ってこう言った。
「こんなものは何でもない」
「そう言って頂けますか」
「御主をやっかみ中傷するにしてもじゃ」
こう
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