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黄金獅子の下に
黄金獅子の下に 3
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 しばらくしてベッカーに気づき、近づいてきた。許可を取っての見学なんだろう、とこちらもぺこりと頭を下げる。
 夜半とはいえ、明かりがついているし警備員からドックに作業員が残っていると聞いていた。最終工程だとしか聞かされておらず、まずはゴンドラを見て、描きかけの国章に気づいたのはその後だった。
「作業中に失礼します」
「いや、休憩中だ……失敗したんで頭を冷やし中、というのが正しいがな」
 まだ若そうな軍人が丁寧に尋ねたので、ついベッカーも正直に答えてしまう。
「失敗?」
 見上げた先には赤い光の輪郭線と、その内側が黄色く塗られているだけで、何がどう失敗したのかわからない。線からはみ出しているのかと思い、目を凝らして見たが、そのようには見えなかった。
「……あの、どのあたりが?」
「どのあたりって……そうだなあ…まあ、あのあたり、だな」
 指された箇所を注視する。
「……わかりません…」
 ミスを発見できないのは自分が悪いかのように項垂れる軍人の肩に、ぽんと手を乗せる。
「まあな……グリムだって、わからねえくらいだから仕方ないさ」
 それからグリムというのは普段自分の補佐をしている者だと付け加える。
「それなら…誰にもわからないのでは?」
「うーん……」
 ベッカーは苦笑を混ぜて唸った。
「でもな、俺がわかっているからな。ダメなんだよ。そりゃ、国章が少々歪んでいたって、旗艦の航行速度が落ちるわけでも、防御力が低くなるわけでもないんだが……」
 つられて頭上を見る。
「ここ何カ月かで全艦隊の国章を描き変えているんだ。中には誰が見ても歪んでいるヤツもあるだろうよ。おっと……うちからは絶対そんなのは出してねえからな。ま、あの上級大将が文句言いに来なけりゃ、黒には塗り直なかったろうけどよ」
 見上げていた軍人の肩がぎくりと動いたが、ベッカーは恋人でも見つめるような視線を白い艦艇に向けたままだ。
「あれにはたまげたね。何もあんな風に乗り込んで来なくても、伝令で済むのにな」
「黒色槍騎兵の軍艦が黒く塗られていなかったんですか」
 おっと声をあげてベッカーが隣を見た。
「そんなに有名なのか……まさか上級大将がお供も連れずに、警備員振り切って、怒鳴り込んでくるとは誰も想像してなくてよ。だってきちんと名乗って見学許可取りゃあいいだけなんだから」
「そう、ですよね」
 笑いを堪えているのだろうか。声色と呼吸が広い廠に不自然に響く。だがベッカーがそれを気に止める様子はない。
「駆逐艦も巡航艦もどの艦隊所属だろうが、規格は同じなんだから、ある艦艇だけ黒く塗装しろだなんて、欄外に小さく書いてあっても見落とすこともあるさ。旗艦ならな…ここまで特殊でないにしたって、注意したろうに。グリムたちにゃあ言えねえがな…俺、さっき手が震えたんだよ。
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