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黄金獅子の下に
黄金獅子の下に 3
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ですよ。今、ミュラー上級大将が来られていたでしょう?」
「ああ? ミュラー…? 上級大将? 軍人が艦を見に来ていたが」
 もごもごするマスクとゴーグルを外すと、その部分以外が塗料に染まっているが、それを笑うこともないほど興奮している。
「どうして気づかないんですかっ」
「だって…名乗ったわけでも」
「主任だって名前くらいは聞いているでしょうが。バーミリオン会戦で三度も艦を乗り継ぎながら戦って、鉄壁ミュラーと称された方じゃないですか。そりゃ、実物は自分だって、たった今すれ違ったのが初めてですが、映像だってずいぶん流れているのに。戴冠式、ここで主任もみんなと一緒に見ましたよ。黒真珠の間でラインハルト皇帝がご自分の手で帝冠をいただく場面、銀河帝国始まって以来のことだそうじゃないですか。あの時にしっかり映りました。そういえば、ビッテンフェルト上級大将も」
 言われてみればグリムの言うように戴冠式はみんなで見た。
 それまでも何かの折りにちらりと見ることはあったが、あれほど長時間ラインハルトが近距離で映されることはなく、貴族でも軍人でもないベッカー達には見る機会も少なかった。
 他の者は、滅多に映されることのない新無憂宮や、豪華に飾られた黒真珠の間、そしておそらく銀河帝国の歴史上、もっとも美しい皇帝に見入っていたが、ベッカーの頭の中は王朝が変わったことで変更される国章のことで一杯だったのだ。
 大きな会戦の後は、修理や新造艦でドックが空くことがなかったが、それとは桁が違う。
 まさか前王朝の国章が描かれた軍艦を使うわけにはいくまい。
 万を越える国章を描き、輪郭線の光がなくても規定の大きさに描ける自信がある。実際、壁に描いてグリムらを驚かせたこともあった。
 自分が生きている間に、いや、死んだ後でも、国章のデザインが変更されることはあっても、王朝が変わるとは考えたことがなかった。これまで四〇〇年続いたのだから、少々何があろうとも、これからも続くだろうと信じていたのだ。根底からデザインが変わるとは思ったことはなかった。
「ああ……休憩に行かずに残っていれば、自分もミュラー提督に会えたのに。さっきはすれ違っただけで…ああっ、もう描けたんですか。いいです、すごくいいです。艦が白いと黄金の獅子がものすごく映えるんですね」
 グリムの興奮は冷める様子がない。それは好きにさせておこうと思った。
 軍人がミュラー上級大将だったことには正直驚いた。ビッテンフェルトの前例があるが、自分の取り留めのない話を黙って聞いてくれる姿から高級軍人の気配は感じられなかった。
 乗っていた艦が大破する。総員退艦の命令が出る。下士官なら何よりも命だろうが、立場が上であるほど艦から降りるのは辛いはずだ。
 責任を取って艦と一緒に沈めば名誉の戦死で恩給も出る。生き恥を承知
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