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黄金獅子の下に
黄金獅子の下に 3
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ないのだが、ベッカーはそれが嫌いだった。
 これまで、ただ漠然と国章を見ていた。見ていた、というよりも視界のどこかに入ってはいただろう、という程度だった。
 新しい旗艦が子供のように嬉しくて、仕上げ段階に入っていることを聞き、ここに来た。
 まさか国章が、一艦ずつ手描きされているなど、想像したこともなかった。
 しかもこの新造船はその美しい流線型の艦体の為か、国章は艦底にある。ゴンドラは艦の真下に止められていた。
 ベッカーは不自然に上体を反らせ、獅子の頭を描いていく。噴出される塗料の飛沫が容赦なく降りかかり、獅子と同じ色に染められていくのが遠目にもわかった。
 先ほどは初めての白い艦に手が震えたと言っていたが、今は微塵も感じられない。一度塗られた箇所に自信を持って色を重ねていくのが、下から見ていてもわかる。
 時折手を止め、噴霧口を変える。それから上半身を捻り、腰を叩く。
 この距離ではどちらも見えはしないが、彼の顔に刻まれていた皺、白髪の方が多い髪が高い技術と誇りを裏付けていた。身体に染み付いた塗料の香りは職を退いたとしても簡単には抜けないだろう。
 もうベッカーは軍人のことなど意識にないように見えた。
 黄金の獅子が翼を蓄えていく。
 白い艦だけに、それは神々しく浮き上がる。
 声をかけるのは憚られた。
 ヘルメットを取ると一心不乱に翼を描いていくベッカーに深々と頭を下げる。砂色の髪が揺れた。
 そしてヘルメットを小脇に抱え、扉へと向かう。他に人気もなく軍靴が響いたが、ベッカーがそれに動くことはなかった。
 途中、食事と同僚とのおしゃべりでたっぷり休憩を取った急ぎ足のグリムがすれ違う。
「……あれ? え、ええっ?」
 最初は軍服に、それからどこかで見たことのあるような顔に、そして自分にまで相手から会釈をしていったことに驚きうろたえた。
「まさか……? で、でも」
 すれ違ってしまったのを呼び止めるわけにもいかない。いや、すれ違う前であったとしても上級大将に自分から声をかけることなど出来ようはずがなかった。
 そのかわりにドックへと走り込む。
 ベッカーは作業を終え、下を見るともう軍人はいなかった。
「見飽きたか……そうだろうな、たいして面白いものじゃなし」
 少しゴンドラを下げて全体像をチェックする。
「うん、こんなものだろう」
 最初に作ってしまったぶれを発見することは出来なかった。
 駆け込んでくるグリムに気づくとゴンドラから手を振る。
「おう、どうだ? 下からでも完璧だろう?」
 いつもならベッカーが尋ねるより先に仕上がりを見て絶賛するグリムだが、今日は様子が違っていた。
「主任! また何か揉めたんじゃないでしょうね」
「はあ?」
 首を傾げながらゴンドラを下げる。
「とぼけても無駄
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