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黄金獅子の下に
黄金獅子の下に 3
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損傷を受けていれば、脱出用のシャトルも破損していることもあり、全員が乗れないこともある。自力で動けない者は捨てていくしかない場合だって多いのだ。まだ生きている者がいても被害拡大を防ぐ為に、容赦なく隔壁で遮断もされる。
 警報が鳴り響き、死傷者が横たわる廊下を、ひたすらシャトルに向かう。死者ならば放置も致し方ないが、自分も連れていってくれと縋り付く者を足蹴にできるのは、それが非常時で、人間としての心を見失っているからだ。
 シャワーを浴び、温かい食事を取り、人心地が蘇れば、その時の艦内を思い出し、やり切れない思いに襲われる。身体から血の匂いを落とすことはできても、生きながら焼かれる者の叫びや臭いは生々しい記憶として残った。敵ではなく、味方を見殺しにした悪夢は一生消えることはないだろう。
 三度も艦が沈められて、それで生き残れているのは運だけではなく、多くの味方の犠牲の上である。
 自分をシャトルに乗せる為、焼かれながら脱出路を確保してくれた兵の名前はわからないままだ。血で滑る廊下を駆け抜けながら、おそらくはまだ息のある者も踏み付けた。
 爆風で飛ばされてきた鉄板を受け止めた背中からは嫌な臭いが立ちのぼり、軍服は見る間に赤く染まった。その彼の口から出たのは阿鼻叫喚ではなく、今の間にシャトルに向かうように促す言葉だった。
 だから艦と一緒に沈むわけにはいかなかった。なんとしても生き残り、戦闘を続けなければ彼らの死が無駄になる。
 ヘルメットを被った横顔からは、深遠を捕らえることができず、それは両者にとって幸いだったろう。
「……さて…俺はそろそろ続きを描くんだが」
 できたらグリムが戻ってくる前に、ある程度は仕上げておきたい。まだ白い艦からの重圧が強いようなら、いっそのこと明日にして気持ちの切り替えを計る。
「ここで見ていてもいいですか?」
「見てるのはかまわねえが、面白いもんじゃねえぞ」
 ははははと軽く笑いながらベッカーはヘルメットを被り直し、ゴンドラを操作する。位置を決めるとマスクとゴーグルをしてレバーを握った。
 いつものように足元に噴射し、イニシャルを描いてみた。グリムらにしたことのない話をしたせいだろうか、それとも白い艦に見慣れたからだろうか、手の震えは止まっていた。
 ゆっくり息を吸い込み、続きから描き出す。塗料の定着を考え、薄塗りを繰り返すことにしたので、最初のぶれはその時に修正できるだろう。
 赤く浮き出される輪郭線のぎりぎりまで、丁寧に塗り重ねていく。
 境目はその部分だけを細いノズルを使って描くつもりだ。全部を一度に塗ってしまい、後から輪郭を上塗りする者もいるが、そうすると全体の厚みに違いが出てくる。上塗りした境目がステンドグラスのように盛り上がってしまうのだ。それはもちろん、さわれるくらい近付かなければわから
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