黄金獅子の下に 3
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の無事やら武運を願ってだそうだ。海にはバケモノが住んでいると思われていた時代もあったらしいし、海賊もいたっていうからな。うん、まあ、そんな気持ちで描いているんだよ。無事に戻ってこれるようにな」
それからやっと軍人を見やった。つまらない話を聞かせたな、と恥ずかしそうに付け加えれば、それに相手は予想外の言葉で応えてきた。
「……自分は…乗っていた艦を三度も沈められてしまったんですよ」
「…なに? 三度?」
「こうやって軍艦を作る人、整備をする人がいて、だから安心して乗っていられるというのに……三度です」
最初は回数に唖然としていたが、すぐに無理に作ったような笑い声を返す。
「そりゃ……なんて、言ったらいいのか……まあ、三度も撃沈されて生き残っているなんて運がいいんだよ。もしかしたら俺が国章描いた艦だったかもな」
「そうかも知れませんね」
「冗談だよ、冗談。真に受けないでくれ。どんだけ軍艦があると思ってるんだ。それこそ数十万分の一の確率だ。まあ、運っていうよりは、そんなに偉くないってことだろ? だから脱出できたわけだし」
返答がないのは、その通りなのだろうとベッカーは解釈した。誰だって自分の階級が低いと公言したくはないだろう、と。
「近所にいたんだよ。副参謀代理とか、何だかわかんねえ役目で艦橋任務になってな。階級は上がってないんだが、家族は喜んでたし、俺らも万歳で見送ったさ。そうしたらその艦が大破されて退艦命令が出たそうだ。脱出シャトルに乗って他の艦に救助されて、帝都に戻ってきた。乗ってた艦が撃沈されたから、てっきりダメかと思っていたら、生きて帰ってきたわけだ。みんな幽霊が出たと思って、それから大喜びで、大騒ぎで……そうしたら翌日に呼び出しだよ。なんでもそいつ以外の艦橋にいた人間は、全員艦と運命を共にしたそうだ。誰も退艦命令には従わずにな。あれは下士官への命令なんだってな。名目は艦長の最期を報告とかなんとか言ってたが、罪人みたいに連れていかれて……何があったのかはわからねえが、報告の後、自分だけ生き残ったのを後悔して自害したそうだ───まあ、そうなってるが……本当にそうだったかなんて……おっと…口が滑った。今のは聞かなかったことにしてくれ」
両手を合わせ拝む身振りは仲間内で用いる気軽そうなものだが、萎縮した声色からは真剣さが伺えた。自害のついても他言が露見すれば処罰の対象になるし、ましてやそれに疑いを持っているとなれば国章を描いている場合ではない。
「あ、ああ……何も聞いてないです」
大丈夫ですよ、と手を振ったことにベッカーはほっとした。これまでの戯れ言を聞いてくれたので、つい安心して言ってしまっただけなのだ。
それは聞いていてもわかったし、彼の気持ちは自分が乗っていた艦が沈んだ時間に戻っていた。
退艦命令が出るほど艦が
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