黄金獅子の下に 3
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それでラインがぶれたんだ。なんせ白い艦なんて初めてだから」
へへっと自嘲が付け加えられた。
「白い旗艦といえばブリュンヒルトの代名詞みたいなもんで、ありゃあ、それこそ大貴族所有の艦艇専門のドックで作られたらしいし……なんていうか…うちみたいな小さいドックでこんな旗艦を作れるなんて夢のようだ」
話しながら彼の視線は、幾度白い旗艦に向けられただろうか。それは確かに恍惚として見つめたくなるほど美しかったのだ。
「国章描きながら、俺なりに願っていうのか? 掛けているんだよ。戦艦が沈められたら新造艦の注文が入る。負けなかったら修理もねえ。戦争が終わったらドックの半分が必要なくなるだろうよ。商船の注文がそんなに大量に入るわけないしな」
ゴンドラの柵に両肘をかけてベッカーは話し続けた。
「それでも、できたら俺が手掛けた艦は撃沈されることなく残って欲しいよ。艦が無事だってことは、乗ってる人間も無事ってことだし。だから一隻一隻俺なりに気持ち入れて仕事しているんだ。人から見りゃわからないようなミスでも、俺が気づいちまったんだから、そのまんまにするのは気分が悪い」
頭を掻き毟ろうとしてか、それにはヘルメットが邪魔なことに気づき、それを外してゴンドラ内に投げ込んだ。黒髪よりも白髪が目立つそれをぐしゃぐしゃと掻き乱す。
「自分でも阿呆らしいとは思うんだけどな。レーザー砲の照準がズレてたら、それが勝敗を決するかも知れねえが、国章がちいっとズレていたからといって、それが原因で撃沈されるなんてことは……まあ、あったら驚く。
だけどな、軍人が国を守って戦っているのなら、軍艦を作っているのも俺は同じだと思ってる。そりゃ、戦死はしねえし、怪我だってたいてい自業自得だけどよ。外装の塗装なら、それでも防御力に関係もしてくるだろう。俺なんか国章描いているだけだもんな。だからせめて魂込めて描きたいんだよ」
誰も聞いていなくてもよい、そんなベッカーの心からの呟きが続く。
「母艦くらいでかいと真っ平らな面だけど、駆逐艦だと描く面が微妙に曲面でな。図面書いたヤツはそんなことまで考えてねえから……ここらだと落ち着く、くらいしか思ってないんだろうよ。で、全部を同じに塗ると、間近で見た時には均等で綺麗な仕上がりなんだが、離れて見ると、こう、曲がってる……というか、凹んでいるあたりか? とにかくそこらが沈むんだよ。ああ、かなり微妙な加減だし、普通誰も気がつかないだろうよ。あんなの近くで見るのは俺たちか修理の奴らだけだろ? だいたいが離れた場所から見るもんだ。宇宙に出ちまったら、それこそ誰にも見えねえし……だけど俺はその時を想像して、船体に反って濃淡をつける。
昔に読んだ本で……船っていうのは海を渡る乗り物だった頃、船の舳先に彫刻を飾ったんだとさ。綺麗な女神像が多かったらしい。航海
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