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不意に不安げな表情を浮かべた文音が「私とじゃ嫌ですか」と問う。
「そんなことない! 全然ない!」
祐次が大げさに首を振る。それを受けて文音は安堵するような笑みを浮かべた。
手にした飲み物が空いたら二階へ、と文音が話をまとめた。
静かに頷く祐次だが、内心は穏やかではなかった。
スポーツ飲料の缶を口につけながら、文音をじっと見つめている。彼女が何を思っているのか知りたくて堪らなかった。
文音は視線に気付いて、口元を小さく歪めた。
それから、腕を上げて缶を大きく傾ける。
最後の一口を飲み干す姿に、祐次は魅入られていた。
白い喉が動く様も、露になった腋に滲む汗も扇情的だった。
空になった缶を机に置いて、文音は微笑みながら言った。
「ごちそうさまでした」
祐次は胸を高鳴らせながら、慌てて手にした缶の中身を飲み干した。
*
階段を上る。
先頭に立つ文音は如何なる空間が待っているかを知っている。
対して、祐次の表情には不安が滲んでいた。
眩しいぐらいに照明が使われていた一階から離れるにつれて、薄暗くなっていく。到着したフロアは同じ建物の中とは思えなかった。
スポーツの為に作られた施設とは考え難い、妖しい空気が漂っている。
カップル専用とされているのが、余計に淫らなものを思わせた。
「な、なあ……」
一階とは全く異なる雰囲気に圧倒され、祐次は文音に声を掛けた。
しかし、彼女は何も答えず、振り返りもしかなかった。
(……変な夢でも見てるのか?)
文音の態度に違和感を覚え、首を傾げた祐次が自身の頬を抓ってみる。
痛みはしっかり感じられた。
階段を上がってすぐのところにはロッカーの並んだ空間が広がっていた。
文音はそこで二人の女性スタッフに声を掛けていた。
スタッフはどちらも若く美しい女性だった。一階で見掛けた従業員と同じ制服を着ている。
(じゃあ、やっぱりここもジムの中だよな……)
何か理由があって、妖しい空気を演出しているのかも知れない。
そう思いながらも不安は抜け切らない。
祐次の下へスタッフが近付いてくる。文音は二人の後に続いていた。
初めての利用者に対する説明でも始まるのだろうか。
そんな考えが頭を過ぎった直後、女性スタッフは両脇から祐次の身に抱き付いた。
「えっ、うわっ、なっ、何ですか!?」
驚愕しながらも、祐次は彼女達を振り払うことが出来なかった。
押し付けられる身体の柔らかさや、全身から漂う良い匂いに捕らわれてしまっていた。
「先輩っ」
愉しげな文音が声を掛ける。
彼女はスタッフ達の取った行動に驚いている様子がなかった。
「な、なっ、なんな
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