卍(まんじ)
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卍
「ウッホ、ウホウホ、ウッホッホーッ!! あ、いけね、でっけえ声出しちゃった……」
ゴリラのような笑い声をあげながら、ゴリラのような顔の真選組局長・近藤勲は、例によって片思いの相手の志村妙のストーカー行為を開始していた。
いつものように妙の家(恒道館道場)の縁の下に身をひそめながら、近藤は今回初めて持ってきたものをにっこりと眺める。
アロマオイルぐらいの大きさの、茶色い瓶。容器に貼られた白い紙には、赤い大きなキスマークがつけられている。
吉原で使われる『愛染香』をさらに強くした、超強力媚薬だ。
これを妙の飲み物に仕込み、自分もその媚薬を飲む(しょっちゅう彼女に『ムラムラする』彼には必要ないと思うが)。
薬の影響で彼女の欲求不満がたまったところに自分が現れ、妙の欲求を満たし、自分も彼女をものにする。
「今日こそ、いや、今にも俺はお妙さんをものにできるのだ!!
作戦は完璧だ!!
俺って天才!? あ、いけね、またでっけえ声出しちゃった……」
そう言いながら、さささっとゴキブリのように縁の下を駆け抜け、畳をどけて客間に顔を出した。
客間にはだれもおらず、四角いヒノキで出来た机の上に、丸いお盆が置かれ、中央にはスルメイカの入った青白い皿、それを挟むように、志村家愛用の濃い青色の湯呑が2つ置かれている。
片一方はお妙さんの分、もう一方は、未来の弟になる新八君の分だろう。
媚薬を湯呑に入れようとした時、近藤は、ふと悪い想像をしてしまう。
もし、お妙さんと一緒に、新八君がこの薬を飲んでしまったら……。
そうなった時に起こるであろう恐るべき光景がありありと近藤の頭の中で浮かんだが、頭を振って払いのけ、湯呑の中のお茶に1滴ずつ(強力すぎて1回1滴しか使えない)、惚れ薬を垂らしていく。
瓶から出た紫の液体は、湯呑の中の濃い緑色の中に溶け込んで広がり、薬を入れたとはだれも判別できなくなった。
「よっしゃ!」
片方を今すぐ自分が飲むのもやぶさかではないが、それでは怪しまれてしまうと思い直し、近藤が再び縁の下に潜り込もうとすると、
「貴様! 一体ここで何をしている!?」
女の高い声だが、男のようにりりしい声。
近藤はびくっとなり、冷や汗をかきながら、ゆっくり後ろを振り返った。機械のように。
そこには、お妙さんの女友達の柳生九兵衛が、額に血管を浮かべて腕組みをして立っていた。背中までかかる長い黒髪を後頭部で止め、つぶれた左目には黒い眼帯。紺色の着物と袴に大小をさし、白い外套を着た、いつもの姿である。
「あ……」
ちらりと横を見ると、ストーカーの対象である妙が立っていた。服装は、普段の桃色を中心に青い帯、髪は茶髪を後頭部で束ね、首のあたりまで垂らしたきれいな姿だが、つぶらな
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