Side Story
少女怪盗と仮面の神父 38
[3/5]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
(違う! 私は!)
咄嗟に顔を上げ……何を言い返そうとしたのか、ミートリッテ自身にも解らない。
でも、言わなければ駄目だと思った。
(私は……っ)
自分に伝えなきゃいけない言葉がある。
何処かで誰かに聴いた、とても大切な言葉が。
その内容を思い出す前に、幼い自分へと腕を伸ばし……
「恩を返すべき人達はもう、何処にも居ない。だったら、終わらせましょうよ。無駄に生き続ける事こそ、ハウィス達への冒涜なんだから。そうでしょう? ミートリッテ」
振り返った虚ろな瞳を捉えた瞬間、体が硬直する。
蛇に見込まれた蛙のように、動けない。
(……止めて!)
自分の両手が首に絡み付く。二本の親指が脈打つ場所を的確に押さえ、圧迫する。
「……苦しい? だよね。多分みんなも、殺される瞬間は同じ気持ちだったよ。怖くて、苦しくて、痛くて、混乱して、助けて欲しくて……私なんかに関わらなきゃ良かったって、後悔して恨んで、憎んだ。なのに、自分だけは楽に生きて楽に死ねると思うの? 甘いなぁ。この期に及んで夢見すぎだよ」
(違っ……、そうじゃない! 私は!)
「言い訳は要らないの。精々もがき苦しんで。そして……永遠にバイバイ、私」
(やめ……!)
喉の奥が鋭い痛みを訴えた。子供の物とは思えない力で気管を塞がれ、空気を求める肺が暴れ出す。
唇の端に唾液が溢れ落ち、覗いてる自分の顔が二重三重にブレて、黒く染まっていく。
(……だ、め……)
これじゃ駄目だ。
私は知ってる。ちゃんと聴いてた筈だ。
思い出せ!
私が自覚してなきゃいけなかった事を!
(わた、し……は……っ)
『ミートリッテ』
……声が聴こえる。
両肩に柔らかな熱が灯る。
優しくて温かい、あの人の声と感触。
大切で、大事で、大好きな……お母さん。
(……そう、だ……。私は……っ!)
唇を噛み締め、見えない何かに抑えられた全身、伸ばした腕を無理矢理に動かす。
先ずは人差し指。
次は親指。
「! なんで!?」
徐々に大きくなる私の動作を見て、幼い自分が慌て出した。
「あ、諦めてよ……っ! あなたは生きてちゃいけないの! 生きてたらみんなを不幸にするの!!」
(い、いえ…… いいえ、違う!)
五指が動く。手首が、肘が、肩が。自由を取り戻していく。
反対に、首を絞める自分が狼狽える。
「違わない! お父さんもお母さんもハウィスも、みんな死んじゃった! あなたの所為で死んじゃったんだもん! あなたも死ななきゃ駄目なの!!」
(死んで、ないっ! 誰も……私も! これ以上、死なせてたまるかぁぁああああああッ!!)
上半身が、腰が、両膝が、足首が。私の意思を通して勢いよく立ち上がる。
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ