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逆さの砂時計
Side Story
少女怪盗と仮面の神父 38
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達も、身を呈して護ってくれたマーシャルさんやベルヘンス卿も、義賊を密かに匿った所為で職権濫用の罪を背負ってしまったエルーラン王子も、最初からずっと手を差し伸べてくれてたアーレスト神父も。あなたの所為で殺され、一纏めに焼かれ、野に棄てられたの。……ねぇ。あなた、あれを見て何も感じないの? 餓えた獣ですら顔を歪めて逃げ出したのに……酷い人。本当に知性と理性を兼ね備えた生き物なの?」
 異様な雰囲気を釀し出している黒影は、凸凹を一つ一つ丁寧に分ければ人間型の炭になるだろう。
 顔も性別も判別できないそれらは、ぷすぷすと音を立ててか細い煙を揺らしている。
 何も感じない、訳がない。
 込み上げる嘔吐感と恐怖で心臓が凍り付き、全身に冷たい汗が吹き出して流れ落ちる。
 逸らした目の表面に張り付く透明な体液が、自然物も人工物も等しく駆逐された光景に波を立てた。
 小さな自分が背を向けたまま、くすっと笑う。
 「わざとらしい……それも自分を憐れむ涙でしょ? 赦しの言葉をくれる相手が居ないから、反省する振りで自分を赦そうとしてるんでしょ? 実際には憎まれようが恨まれようが、死人に口無しだもんねぇ? 偽りの優しい記憶で過去を塗り替えて、赦してもらえた気分になって、これからも楽しくのうのうと生きていきたいんでしょ? つくづく卑怯で最低だわ。ちゃんと見なさいよ。あなたが産まれた結果を。あなたが生きたいと願った結果を! あなたが自分で考え、選んだ未来の行く末を!!」
 (止めて……っ)
 「ほら、どう? 満足でしょう? 自分の為に生きたあなただもの……自分の為に積み上げられた死体を見て、本当は満足してるんでしょう!?」
 (止めてぇぇええええ!!!)
 ぐさりぐさりと突き刺さる言葉の槍に耐え切れず、両手で耳を塞ぎ頭を振った。
 (満足だなんて思ってない! 思える筈がない! こんな結末、一瞬たりとも望んでなかった! 私は……私はただ、みんなと……っ……)
 「はっ! バカバカしい。どうしてお父さんとお母さんは、こんな自己中心的で偽善の塊みたいな下らない屑を愛して護ってくれてたのかなぁ……」
 ミートリッテの絶叫と落涙を、幼い自分が冷めた声でひたすら責める。何もかも自分自身の所為じゃないかと、嘲笑う。
 「ねぇ……大切な人達を犠牲にしてまで生きて、何が楽しいの? 何が嬉しいの? 私はもう……嫌だよ。奪うばかり……失くすばっかりのこんな世界……生まれたくなかった! 生まれて来なければ良かった!!」
 奪い、冒し、壊し、棄てて、嘲笑う。
 降り積もる砂塵の如き冷酷な悪意に囲まれながらも寄り添ってくれた優しい人達に、返せるものが仇しかないと言うのなら。
 こんな世界。
 こんな自分。
 「もう、いらない! 全部全部全部全部全部! 消えちゃえーっ!!」

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