63.彼岸ノ海
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『しかし、ならば何故黒竜は逃げぬのであるか?』
ウォノが首を傾げるが、その理由はアイズにもなんとなく理解できた。
さっきオーネストが言っていた推測と同じく、「しないのではなく出来ない」のではないだろうか。その理由を考えれば推測は簡単だった。
『引けば『猛者』と『酷氷姫』、そして場合によってはそれ以上の人の追撃が待っている。それに、首を切られたのなら単純に動けないのかもしれない。逃げられないなら迎撃するしかない………じゃ、ないかな』
『その考えで相違ないだろう。だから奴は待つしかない。俺たちが下手打って防御が疎かになったところを食うしかない。攻めの手を緩めたら自分が食われるから、この状況でギリギリまで待つしかない。ならば俺たちがするのは奴の一番嫌がる行為――すなわち、待つことだ』
その後、黒竜の今後の行動に応じた作戦を簡単に伝え、それ以降メンバーは全員ずっと大人しく黒竜が痺れを切らすのを待っている。
こうして何もせずに待っていると、段々とオーネストや自分たちの出した結論が実はとんでもない間違いだったのではないかと思えてくる。実はこちらが待つという選択をすることさえ見越して、自分が最低限の労力で相手を潰す作戦なのではないだろうか。
アイズたちは永遠に来ることのないチャンスを待ってずっと馬鹿正直に待ち続け、やがて魔力が切れて、溶岩に――。いや、或いは黒竜はあの溶岩の繭のなかで更なる形態変化を起こしてこちらを蹂躙する気で、今の状況はブラフなのでは――。
背筋から這い上がる「死」の恐怖を振り払うように頭を振ったアイズは一度深呼吸する。氷の加護を以てしても完全には防ぎきれない熱が喉を通るが、少しだけ気は落ち着いた。周囲を見るとオッタルは微動だにせず剣を抱えたまま瞑目し、リージュや人形たちも焦る様子はない。アイズは少しだけ焦っていた自分が恥ずかしい気分にさせられた。
(わたし、未熟だ……レベルが上がっても、まだ足りないものがあるのかな)
救出だけが仕事であると予め告げられての同行だったが、内心では戦いもあるかもしれないと小さな期待を抱いてはいた。しかし、この様子では仮に戦いになっても自分は役に立たないかもしれない。自分にも与えられた役割はあるが、
唯一オーネストは意識不明のままのアズを前に神聖文字を操り続けている。
その姿に普段の超然的な雰囲気は感じられず、ただ懸命にアイズには理解できない何かを続けていた。
「オーネスト、今いい?」
「………何をやっているのか、と聞きたいのか?」
「うん」
黒竜に動きがない今、アイズにはやる事がない。そうすると気がかりなのは意識を取り戻さないアズがどうなっていて、オーネストは何をしているのかが気になってくる。断られたら素直に諦めようと思って
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