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霊群の杜
うわん
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なくなった」
「そっちかよ」
大変だったよー、警察入ったしね、と縁ちゃんは事もなげに云う。
「…怖くないのか」
「私は、玉群で生まれ育ったの。こんなの、慣れてる。どうすればいいのか分かっている子は、まだやりやすい子だよ」
―――ありえない。
まだ年端もいかない少女が、こんな伏魔殿で危険な妖に囲まれて生きてきたなんて。
「なんで何も云ってくれないんだ!縁ちゃんに何かあったら…!」
縁ちゃんは事もなげに振り返って微笑んだ。長い栗色の髪が、綺麗な弧を描いた。


「私は多分、玉群を継ぐよ」


え……?
「真お兄ちゃんは家を出ちゃった。多分、戻って来ないよ。奉お兄ちゃんはほら…あれだし」
あれ…だな。
「玉群を存続させるために『お兄ちゃん』は犠牲にされてる。だから、この家は潰れない。私の代まで」
だけど、でも…そんな…。
「あれだけど、男だろ!?縁ちゃんが犠牲になることない、奉が継げばいいんだ」
「結貴君に話したこと、なかったっけ」
『奉』は家を継がないんだよ。契約の相手だからね。と、縁ちゃんは肩をすくめた。
「縁ちゃん…奉のこと…」
あいつのことを『奉』と呼んだ。縁ちゃん、君は…。
「んん、奉お兄ちゃんのことは好きだよ。私のお兄ちゃんは、あの二人だけ。生まれなかったお兄ちゃんには悪いけど」
―――正直、驚いていた。
玉群の中心で蠢いているのは大人たちだけで、この子は無垢に、無邪気に人生を謳歌していると思い込んでいた。玉群の因習は、こんな幼気な子まで巻き込んで…俺は、奥歯を噛み締めた。
「縁ちゃんは関係ない、巻き込まれるな!」
親が代々出入りの庭師とか、そんなことは関係ない。もしこれ以上この子を巻き込むなら俺は!…縁ちゃんは、濃い桜色の唇を軽く引き結んで、俺の目をしっかりと見返してきた。
「ありがとう。でも決めたの。…私にしか出来ないことがあるから」


―――私は『奉』の契約を、切るよ。


少し冷たくなった風が、草の山を揺らして通り過ぎた。
「……それ、奉には」
「んん、云ってない」
「何故、俺に」
「結貴君、だからだよ」
そう云って縁ちゃんは、あの妖が消えた壁を見上げた。
「生贄を捧げて祟り神に守ってもらわないと消えちゃうなら、それはもう消えるべきだと思わない?」
きりきりと胃が痛んだ。縁ちゃん…なんて重い十字架を背負わすのだ。いつも唐突なのだ君は。昔っから。
「これ以上、この家の為に子供を死なせない」
もう一度俺に振り向くと、縁ちゃんは小指を出して、俺の目を覗き込んだ。…あの頃と少し違う、深い紺色をしていた。
「誰かに話すの、初めてなの。誰にも内緒だよ」
「………うん」
俺たちは6年ぶりくらいに、小指を絡ませて小さく上下に振った。
「契約、成立!」
そう云って
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