うわん
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来なくなったのは、いつの頃からか。
「草刈り、ほんとは嫌だった?」
「そんな事ない。…ここ最近で、この瞬間が一番平和」
それに、俺はわりと草刈りが嫌いじゃない。
「植木屋で生まれ育ったからかな。…好きなんだよ、植物」
親父の仕事について回っているうちに、草花の名も植木の名も自然と覚えた。親父やお弟子さん達が語ってくれた話も面白かった。
「なら庭師継いだら?」
「務まらないよ、植物好きなだけじゃ」
だからいいんだ。俺はこれ以上玉群に深入りするべきじゃない。俺だけじゃなく、親父も分かっている。だからこそ、俺は長男にも関わらず、家業を継げと云われたことはない。
「ふぅん…」
俺が直視できなくなったにも関わらず、縁ちゃんは未だに子供のように臆面もなく俺の目を覗き込んでくる。この子は余所でも…というか、例えば学校とかでも、こんな風に誰かの目を覗き込んでいるんだろうか。まだそんなにも、幼いんだろうか。
「縁ちゃんは、彼氏とかいるの」
口走ったその直後には『しくじった』と感じた。俺たちを取り巻いていたゆるい空気は一気に消し飛び、隣の縁ちゃんがざっと飛びすさった。
「え!?なに急に!?居ないよ!?」
本当だ、俺は一体何を口走っているのだ。縁ちゃんが耳まで真っ赤にして、あたふたと立ち上がった。
「あ、でもまあ!好きっていってくる人がいないわけじゃないけど!!もてないとかじゃないけど!!」
「やや、ごめん!どうかしてた今の忘れて!」
時間戻れ、10秒前に戻れ!!と念じるも既に縁ちゃんは俺から2m圏外に移動してしまった。
「えぇ〜…ちょっと…」
こんな合コンなどでは挨拶というかジャブみたいな質問でこんなにうろたえるとは…。今拒否られている真っ最中だが、妙にほっこりしている自分が居る。駄目だ。何だ俺は。変態か。
しばらく…俺の体感時間では20分くらいだろうか、縁ちゃんは微妙に距離を置いて黙々と草をむしっていた。俺と縁ちゃんの間に、着々と緑色の壁が構築されていく。何これわざとか?と気になり始めた頃に、壁の向こうから縁ちゃんの声がした。
「結貴くん」
「ん?」
「……振られた?」
ざっくりと癒えてない傷をえぐられ、息が止まるかと思った。
「―――うん」
無意識に、そう答えていた。状況が目まぐるし過ぎて忘れていたが…俺は振られていた。自分でも忘れかけていたが。
喉に突き付けられた匕首の感触が生々しく蘇り、頭がくらりと揺れた。
「結貴くんが突然変なこと聞く時っていつも、そういう時なんだもん」
「えっ、俺そんなダダ漏れだった?」
「いつもが抑え過ぎなんだって」
縁ちゃんがくすくす笑う声が聞こえた。俺が壁を崩して軽く睨むと、縁ちゃんもこっちを見ていた。
不覚にも、どきりとした。
「惚れっぽいよねぇ、結貴く
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