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霊群の杜
うわん
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定はない。恐らく次の庭師になるのは、親父のお弟子さんのうちの誰かだろう。だから俺が知ることが出来るのは、触れざる草の姿と名前だけ。それすら、文字に残そうとすると叱られる。あくまで、全ては口伝。
「―――変なの」
そう一言だけ呟いて、縁ちゃんはたどたどしい手つきでぺんぺん草を引き始めた。
「乱暴にしないで。種が散るから」
そう云い置いて、俺は周囲の雑草に埋もれる小さな触れざる草の群れに目をやる。
この芦に似た紫色の草は、養神芝。六輪の群青の葵が花びらのように花托を囲むこの花は六合葵。…いずれも独特の佇まいだ。思わず手を伸ばしたくなる。だが親父から一つだけ云い渡されていることがある。


―――あれらは毒だ。


なんだ毒って、食うのが駄目なのか、触っても駄目なレベルかと問い詰めたが、とにかく毒としか云わない。つまりは触るな、ということなのだろう。
「……そうそう、なるべく触らないで」
「え?昔よくおままごとに使ったような…」
…え、触っても大丈夫なの?
「や、何でもない」
そのまま暫く、二人で並んで鎌を振るっていた。しゃりしゃりと草が切れる音と、青い草の匂いが満ちる裏庭で、二人だけで黙々と作業している。…ここしばらく、色々な事が起きた。奉の負傷を始め、本当に色々な事が。


そして俺は望まぬ鎌を手に入れた。


一度はきじとらさんに心底嫌われた。俺に憑いた鎌鼬のせいで。今でこそ命懸けで小康状態を取り戻したが、結局、俺が完全にこの鎌を手放すまで、きじとらさんは俺に心を許すことはないだろう。傍らで喫茶店のケーキを楽しみに、鼻歌まじりに草を刈る女の子が居てくれることが、とても心に沁みる。
「お兄ちゃん、もう元気そうじゃん。あれ絶対、草むしり手伝いたくないから退院延ばしてるんだよ」
「……いや、もうただ単に上げ膳据え膳を手放したくないんだろう。あいつが律儀に草むしりを覚えていると思うか」
「んん、覚えてるよ。毎回結貴くんが帰ったあとで、何か摘んでるもん」
「……そうか」
俺は、生まれた時から一緒にいるのに、奉のことを何も知らない。この家のことも、俺の家のことも。…俺の庭仕事と同じだ。あれは刈るな、それ以外は刈れ。そんな単純な頼み事の裏側にいつだって深遠なはかりごとが蠢いている。
そしてそれは今や、玉群家にも、奉にさえも制御しきれないうねりになりつつある。それはいつしか蟻地獄のすり鉢のように俺や…俺と同じように何も知らないこの子を巻き込むのかもしれない。
「なんか、元気ないよ?」
ふと顔を上げると、縁ちゃんが俺の顔を覗き込むように首を傾げていた。栗色のポニーテールから、柑橘系のシャンプーがふわりと香って、草いきれに混じる。兄貴によく似た青みがかった黒の瞳は、その色の珍しさに、小さい頃はよく覗き込んでいた。直視出
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