巻ノ七十三 離れる人心その四
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「おられぬからな」
「ご次男は結城家を継がれています」
伊佐は家康の次男のことを話に出した。
「太閤様の養子でもあられましたが」
「ではご三男の竹千代殿か」
猿飛も言う。
「そうなるか」
「とかく子沢山でもあられる」
最後に霧隠が言った。
「このことも確かに大きいか」
「うむ、やはりな」
幸村も口々に話した十勇士達に穏やかに答えた。
「このことが大きい」
「やはりそうですか」
「徳川家はご子息も多い」
「ひいてはそれが一門衆であられる」
「だからですな」
「このことにおいても」
「内府殿は」
十勇士達はあらためて幸村に問うた。
「磐石なものがありますか」
「そちらにつきましても」
「そう思えてきた、内府殿が天下人となられれば」
その時はというと。
「天下を万全にじゃ」
「治められる」
「後も続く」
「そして天下は長く泰平になりますか」
「そうなるであろう、しかし拙者はな」
幸村はまた瞑目する様にして言った。
「徳川家の天下になろうとも」
「それでもですな」
「関白様に言われていますな」
「お拾様を頼むと」
「その様に」
「しかも義父上もおられる」
大谷、彼もというのだ。
「あちらにな、だからな」
「余計にですな」
「殿としましては」
「豊臣家にですか」
「そう思われていますか」
「家が第一であるが」
真田家、この家がだ。真田家はこれまで家を守る為に手段を尽くしてきたが彼もまた同じであった。それでだ。
幸村もこう言った、だがそれでもこうも言った。
「義はな」
「武士として」
「忘れてはならぬこと」
「それで、ですな」
「殿としては」
「出来ることなら義に従いたい」
幸村の偽らざる本音だった。
「何とかしてな」
「左様ですな、では」
「我等はです」
「殿に何処までも」
「その殿が進まれる道にです」
「従いまする」
十勇士達は皆幸村に微笑んで述べた。
「殿と共に」
「地獄の果てもまでも」
「お供致します」
「済まぬな、拙者は冨貴や権勢には関心がない」
それも一切だ、幸村にはそちらへの望みはない。それで彼等にもこう言った。
「御主達もそうしたことにはな」
「ははは、それは我等も同じ」
「そうしたものにはです」
「一切興味がありませぬ」
「そうしたものは所詮使えば消えたり落ちるもの」
「儚いものです」
冨貴や権勢といったものはというのだ。
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