第7章 聖戦
第159話 追儺
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黒い影の周りを更に囲むように浮かぶ紅い炎たち。
ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ――
「さぁ、どうする英雄王さんよ。これだけ多くの炎塊を躱す事が出来るかな」
カブ頭の手が翻り、黒きマントの裾が不穏に揺らめく。そして、その度に次々と顕われ浮かび上がる炎の塊。
その数は既に二十を越え、世界に巨大な熱量を放射し始める。
「もっとも、ウカツに躱しちまったら、その時は流れ弾が何処に行くか分からないがなっ!」
真面な……。耳障りが悪いとは言え、真面に意味が理解出来るガリア共通語に続く奇怪な叫び。それは単調な繋がりを持ちながら、しかし、世界に――。人類の歴史が始まって以来、ずっと積み重ねられて来た常識や当たり前に軋みを上げさせた。
これは――これは獣の叫びか? 耳を覆いたくなるような不快な音階に対してそう考え掛け、直ぐさま否定。獣はこのような声は出さない。
そもそも、真っ当な生命体では出せない叫び。
そう、其処に居たのは既にガリアの騎士ジャック・ヴェルフォールなどではなかった。人間の条理も、節理も、道徳すらも一切通用しない存在。ありとあらゆるモノの外側に存在し得るモノ。
これは――この狂気に彩られた絶叫はおそらく、歓喜の叫び。
それまで自らの意志により押さえ付けていた能力を解放する喜び。人外の存在が振るう異界の能力を思う存分振るえる際に発生する万能感の発露。その低い単調な繋がりが大理石の床を揺らし、金銀の装飾品を、そして何より集められた人々の心を穢しながら――
刹那、ヤツの身体を覆い尽くしていた黒き陽炎が揺れる。確かにこれまでも不穏な……見る者を不穏な気持ちにさせる影の如き巨大な陽炎がゆらり、ゆらりと揺れているようには見えていた。しかし、この瞬間、それは明確な意志の元に周囲に浮かぶ紅き弾に干渉を開始。
そして次の瞬間!
爆発的勢いで走り始める炎塊。それぞれの動きを一般人の瞳で完全に追い掛ける事は不可能。それぞれが、それぞれに相応しい速度で。有るモノは音速を超えたと思しき衝撃を床に、壁に、天井に刻み付けながら、在るモノは床面ギリギリの高さを、緩急を付けながら蛇行を繰り返し――
しかし、そのすべてが確実に俺を目指して迫り来る!
しかし、そう、しかし!
思考の分割。呪詛返しの強化。
俺の龍気の高まりに反応した王権の剣が強く輝く。
刹那、右腕が軽く弧を描く。
「東海の神、名は阿明!」
バン! 裂帛の気合いの元、輝ける勝利の剣を一閃。
その瞬間、軽く音速を凌駕して接近して来たバレーボール大の炎の塊が三つ、一瞬よりも早く簡単に弾けて仕舞う。
その後には空間に引かれた蒼銀の一閃が残るのみ。確かに其処に存在したハ
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