第7章 聖戦
第159話 追儺
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いたヴェルフォール。しかし、その彼我の距離が十メートルを切った瞬間、それまで奇怪な唸り声とも、金属と金属を擦り合わせた時に発生する精神を逆なでするかのような音とも付かない、真面な言語ですらなかった奴の言葉が明確に呪文と言える物へと変わった。
その瞬間、ヴェルフォール自身が纏う黒き影が今までの大きさの倍近くに膨れ上がり、周囲に発散させる狂気がそれまで以上に危険なモノへと存在を変え――
――立ち昇る熱が陽炎の如く空気を、発生させる狂気が理を捻じ曲げて行く。
「我の捧げる贄を受け取り給え!」
い、いいいいい、いあ いあぁ くぅ、くく、くとぅぐあ!
鏡の間に響くヴェルフォールの聖句。そして、その声に重なる爆音。
刹那、ヴェルフォールを覆う黒き影から発生する猛烈な炎。その熱により奴の足元の大理石の床が一気に溶解。
その猛烈な勢いの炎が彼我の距離十メートルを一瞬にして埋め尽くし、無防備に見える俺を内に包み込む。
その時、世界にすべての音が消えた。
闇に属する炎が発する猛烈な熱量だけが真実。
悲鳴、絶叫。俺の事を将来の英雄王だ何だと持ち上げながらも、本質的な部分では俺の事を一切信用していない連中から絶望的な声と気配が発生する。
但し、それも宜なるかな。中世ヨーロッパに等しい知識しか存在しないハルケギニアに暮らすとは言え、ここに集められたのは貴族たち。彼らが全力で放つ系統魔法が果たして大理石を溶解させる事が出来るかと言うと流石にそれは甚だ疑問。
大理石の主成分、炭酸カルシウムの融点が大体千五百度。大理石が溶け始めるような猛烈な熱を発生させる炎に人間が包まれたら、その後にはおそらく骨も残らない。
しかし!
瞬転、世界が変わる! 圧倒的なはずの魔炎の気配の中に、何か別……もっと清涼なる何かの気配が混じる。
「疾く、律令の如くせよ!」
カン!
そうその瞬間、完全に炎へと包まれた俺から発せられる口訣。そもそも、この程度の炎に害される程度の実力しか持っていないのなら、去年の初冬に起きた翼人の事件。最終的にクトゥグアの召喚事件の際に現われたクトゥグアの触手に燃やし尽くされて人生自体が終了している。
その瞬間、呪われた炎の中から漏れ出す光輝。
それは穢れた炎を一瞬にして凌駕。やがて周囲を、この鏡の間すべてを呑み込む。
そして――
そして、何もかもを白く染め上げた光輝が完全に消え去った時、其処には――
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