暁 〜小説投稿サイト〜
蒼き夢の果てに
第7章 聖戦
第159話 追儺
[1/11]

[8]前話 前書き [1] 最後 [2]次話
「さて、ヴェルフォール卿。ここは潔く降伏して貰えると助かるのですが――」

 決して勝ち誇る訳でもなく、何時も通りの淡々とした表情及び声音でそう告げる俺。
 そろそろ黄昏色に染まり始めた屋外。精緻な彫刻の施された窓より差し込む陽光に少しの翳りが混じる時間帯。おそらく外界の気温は真冬に相応しい気温……五度以下にまで下がりつつある事でしょう。
 もっとも、現在のここヴェルサルティル宮殿鏡の間は二十一世紀の科学の力に因り、()して厚着をする必要もない室温に保たれているのですが。

 ただ……。

 但し、ガリア王太子ルイのペルソナを演じ続ける俺の泰然自若とした雰囲気に比べると、緊張感を高めつつあるギャラリーたち。やや陰気に分類される気を放つ彼らは、自らの置かれた立場に対して言い様のない不安を抱いている事は間違いない。

 そもそも、現在の彼らは徒手空拳。王の御前で開かれるイベントに参加する紳士淑女の方々が、自らの身を守るべき武器や防具の類を身に付けている訳はない。
 (しか)るに、回廊の入り口方向は黒いマントと魔法使いの帽子を目深に冠る黒い影……ジャック・ピエール・シモン・ヴェルフォールが立ち塞がり、
 さりとて回廊の奥にはガリアの王家の人間と賢者枠の三人が居るので、そちらの方向に慌てふためいて逃げる事も出来ない。いや、流石に貴族や魔法使いとしての矜持がソレを許さない。
 正に進退窮まった状態のガリア貴族たちからは、妙に落ち着いた雰囲気を発して居る俺の事がさぞかし頼もしく見えていると思うのですが……。
 いや、もしかすると最後通牒など与える事なく、反逆者などさっさと処分して仕舞え、などと物騒な事を考えているのかも知れないか。

 かなり余裕を持った思考でそう考えを纏める俺。まぁ、何にせよ、窮地に立たされた挙句に半ばパニック状態に陥り、系統魔法を発動しようとして魔法の杖を振り回されないだけでもマシでしょう。あんな条理を捻じ曲げ、気の循環を妨げる陰気を世界に溜め込むような魔法を、この様な狭い場所でバンバン使用されたら、陽気の神獣である俺の体調に悪い影響が出て仕舞う。
 それでなくても、俺は周囲の雑多な気に影響され易いのだから。
 自らの修行不足を他人の所為だと言って責任を転嫁しているような気がしないでもないのだが……。確かに雑音(精霊たちの断末魔の悲鳴)を物ともせずに意識を集中出来れば良いだけ……なのだが、流石に其処まで外界からの影響を排除出来る訳でもないので。と、少し自己弁護じみた形で考えを終える俺。

 誰もが息をする事すら忘れた彼のような空間。少なくとも俺の方から使い魔召喚及び契約の儀式に乱入して来た人物に対して攻撃を加える心算はないので、次の一手はこのジャック・ヴェルフォール卿に委ねられているのは間違いない。
[8]前話 前書き [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ