File.2 「見えない古文書」
\ 6.15.AM.9:21
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打っとったんじゃがなぁ…。」
キヌさんは歩きながら櫪氏にそう言った。櫪氏はキヌさんの後ろで歩きながら、その言葉へと返した。
「では…これ程強力ではなかったと?」
「そうじゃ。確かに火も出とるし死人も出とるが、他は全く何も無かったんじゃ。何か起きた後じゃと邪気も弱り、本体がどこにあるか分からん様になっとってのぅ。まぁお前のことじゃから、もう見付けておるんじゃろ?」
「はい。ですが…近付けるかが問題なんですよ。」
「夏希…櫪現当主のお前がそう言うとは、ただ事ではないのぅ。ここは全員心して行かねばのぅ。」
そう言っているうちに、あの食堂へと着いた。その中に入る前、キヌさんは私に一枚の護符らしきものを差し出した。
「…これは?」
「護身用の札じゃよ。まぁ、気休めにしかならんと思うが、持っとって損もなかろ。」
私はそれを受け取って見ると、やはりそこには私には読めない字が書いてあった。だが、櫪氏の用いてるものとは少し違うような気がした。
「有り難う御座います。」
「礼を言われる様なもんじゃないよ。さ、入るよ。」
その言葉を合図に、私達三人は食堂へと踏み出した。食堂の中はやけに空気が重く感じ、床に開いた大きな穴は、恰かも地獄へ通ずる入り口の様にさえ見えた。
私達はレスキューが使ったであろうあの縄梯子で、再び地下空洞へと降りた。
「邪気が濃くなっとるのぅ…。夏希、灯りを。」
キヌさんがそう言うと、櫪氏は直ぐに懐から札を出して何や呟いたかと思った刹那、それを闇へと放った。すると、それは蒼白い光を放ちながら四方へと散り、辺りを明るく照らし出した。
「さて、邪気の中心は…あれじゃのぅ…。」
キヌさんはそう言って、とある場所へと向かった。その時、空洞の奥から幾人もの声が響いてきたが、キヌさんにそれを気にする様子はなかった。
「キヌさん…あの声…。」
「ありゃ、ここへ囚われたもんの声じゃ。邪気を浄めれば、あやつらも逝ける。さ、早ぅ片を付けるぞ。」
そのキヌさんの言葉を聞いて櫪氏を振り返ると、彼はただ何も言わず首を縦に振っただけだった。
先に進むにつれ、私は何だか胸苦しさを覚えた。何というか…高山に行った時の、あの空気が薄くなる感じに似ていた。
「ここじゃな。」
「そうですね。どうも、ここへ二人埋められたようで…。」
「この御方の妻子じゃな?」
「はい。」
キヌさんと櫪氏は、あの木乃伊の前で短い言葉を交わすと、この後に遣るべきことが決まったようだ。
「相模君。少し下がっていてくれないか。」
櫪氏に言われ、私はその場から十歩程退いた。すると二人は平行して並び、唄を詠み上げながら舞だしたのだった。
- 写し世に 想い残せし 春の日の 過ぎ往く時も いずれ還らん -
それは…とても幻想的な光景だった。
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