贖罪-エクスピエイション-part6/赤い炎の記憶
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メンヌヴィルは、常に獲物を追い求めてきた。ある国の下級貴族に生まれた男だったが、戦場で戦うことに生きがいを感じた彼は家を捨て、いつしか傭兵となった。人が死に際に発する断末魔と、彼らを焼いたときの死体の匂いから、戦場の醍醐味を強く感じ取るようになっていた。
全ては、あの夜のこと…
20年前のとある村を、ある男と共に部隊を率いて、彼は焼き払った。
…いや、正確には、『隊長殿』と呼んでいたある男一人の手で、一瞬でその村は焼き尽くされた。顔色一つ変えずに村を焼き払ったその姿と炎を見たメンヌヴィルは、強い憧れを抱いた。故に、焼きたいと強く想っていた。自分の炎がその男にどこまで通じるのか、隊長殿の力は本物なのか。それを試してみたくなったのだ。おそらく部下たちは自分を飛んだ狂った人間に見えていただろうが、そんなことは構わなかった。自分にとってそれは若気の至りというもの。自分の振るった杖が、ちょうど背を向けていた隊長殿に向けて振るわれる。
しかし隊長殿は難なく自分をあしらった。彼の炎はメンヌヴィルの体を焼き、その炎は自分の両目までも焼いた。
目を焼かれた傭兵など、もはや使い捨ての駒でしかないだろう。視力を失い、目の前に広がっているはずの世界が一寸の光も刺さない闇に閉ざされ、メンヌヴィルは一度絶望した。
…だが、彼は諦めきれなかった。戦場をもっと楽しみたい。人が焼ける叫び声と断末魔を肌で感じたい。なにより…あの隊長殿ともう一度戦いたい。
いつしか彼は、視力を失ってなお戦う夜叉となった。目が見えないにもかかわらず、蛇のように温度で焼きたい人間の位置を読み取り、そして他者の感情さえも温度でわかるようになっていた。まさに自分が求めていた、あの隊長殿のような力を手に入れたと思った。だが肝心の…隊長殿の行方はいまだにわからない。戦場をどれほどめぐっても、彼と再会する機会はなかなか得られなかった。
そんなある夜の事…
以前、自分と隊長殿で焼いた村の跡、そこへメンヌヴィルは訪れた。あの男の炎の残り香を味わうために。だが、すでに匂いも残っておらず、そこにはすでに焼け跡から生えていた草木が生い茂り始めていた。わかっていたことだが、やはりそこにも隊長殿はいなかった。
しかし…メンヌヴィルは感じた。自分に近づく温度を。鉄製のメイスを構え、彼は背後を振り返った。
「…誰だ?」
あの男さえも記憶から霞んでしまいそうになるほどの、『感じたことのない冷たい温度』がメンヌヴィルの肌を突き刺した。
その温度の主は…メンヌヴィルの問いかけにこう答えた。
―――ダーク…メフィスト
メンヌヴィルはあの男以外で初めて戦慄した。いや、おそらくあの男以上。そしておそらく、人間よりも何倍にも及ぶ巨体を誇っていると肌で感じた。このままでは、こいつに踏みつぶされる。
「焼け死ね!
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