File.2 「見えない古文書」
Z 同日 PM2:13
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櫪氏の言うには、如月家初代は十九歳で渡米し、そこで成功したそうだ。当初は日々の暮らしも儘らなぬ状態だったらしいが、二束三文で買った鉱山に凄い埋蔵量の銀が出たそうで、そこからは一変した。その銀を元手に始めた株も大当りし、僅かニ十七歳で大金持ちになったのだ。
この時、彼は既に結婚しており、娘もいたという。相手は日本から来ていた同業者の娘だった。そのためか、彼は家族を連れ、ニ十九歳で帰国したのだ。充分な資産を得た彼は、今度は祖国で腰を据えて商売したいと考えたようだ。
帰国した際、彼は何らかの理由で如月家を興すことになる人物と出会い、その後に事故死してしまったのだ。それを見ていた人物が彼に成り済まし、彼の資産を奪ったのだと…。
「この仮説が正しければ、如月家代々渡って続いた怪現象も納得がいく。」
「にしても…なんでこんなところで信太郎氏が木乃伊に?山奥にでも埋めるなりすれば、もっと容易く証拠隠滅できたはずじゃ…。」
「出来なかったんだろうな。友人…いや、それも違うか。きっと彼は、信太郎氏を愛していたんだろう。」
「愛…?それって…」
「今風に言うならば“同性愛者"だな。現在じゃかなり寛容になったが、この時代ではそれを理解することは難しかっただろう。ま、現代でも意味嫌う者は多いがな。そうか…だから独り占めにされのか…。」
櫪氏の最後の言葉に、私は心底ゾッとしてしまった。別に同性愛に偏見はない。好き勝手にすればいいさ。性犯罪だって昔からあるし、阿部定事件の様な奇っ怪な事件も多い。
だが…死して尚愛され続け、こうして残されてしまうなんて…。私は嫌だ。目の前の木乃伊の様にはされたくない…。私がそう思った時、何処からともなく声が聞こえた。
- 妻を…見付けて…。 -
「妻…?」
私がその声に反応して呟くと、櫪氏は「その後は分からなくなってるからなぁ。」と言った。そして、もうここには用がないと言わんばかりに立ち上がると、あろうことか木乃伊を持ち上げたのだった。
「案外軽いなぁ。」
「櫪さんっ!?まさか…持ってくんですか!?」
「当たり前じゃないか。彼を置いてったら、奥方が見付かったときに困るじゃないか。」
この人はなんと言うか…まぁ、いい。そんな私を尻目に、櫪氏はどこからか取り出した大きな布の袋に木乃伊を丁寧に入れた。それを背に背負い、「じゃ、行こうか。」とにこやかに言ったのだった…。
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