File.2 「見えない古文書」
W 6.8.AM10:23
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言いたいことは分かっとるよ。何でここから離れんかったんか不思議なんじゃろ?」
「え…ええ…。」
このキヌさんの言葉に、私は何だか背筋が寒くなった。さっきから考えを見透かされてるんじゃないか…そんな感じがしてたまらない。
このキヌという婆さん…見た目通りの人物なんだろうか?否。見た目に騙されてはいけないと、私の勘が言っている…。
「そんな顔をせんどくれ。わしゃ、ただの田舎の婆さんじゃよ。何の力も無い、ただの老体じゃて。」
目の前でお茶を啜っるキヌさん…そう言って笑ってはいたが、やはり何かある。私は何が何やら分からなくなってきてしまった。いや…最初から解らないことだらけなのだ。私に与えられているヒントですら、大きなパズルの数枚のピースでしかない。それにどんなものが描かれているなど、その小さな断片からではからでは全く想像すらつかないのだ。
「さっきの続きじゃが、あの家は初代の遺言によって縛られとる。手放すことはおろか、打ち壊して建て直すことも儘ならんようになっとるんじゃよ。火災で焼けてしもうた後も、以前と寸分違わぬ様に建て直されとるくらいじゃからのぅ…。」
「全く…同じなんですか?」
「そうじゃ。傷なんかは仕方ないとして、材質も寸法も全て同じじゃ。どうしてかはわしもしらん。恐らく…もう知る者も居らんじゃろう。まるで歌われんようになってしもうた数え唄のようじゃのぅ。」
その言葉に、私はハッとした。すっかり当初の目的を忘れていたのだ。それを聞くために、わざわざ飯森氏に取り次いでもらったのだからな…。
「キヌさん。今仰られた“数え唄"なんですが…最後の歌詞をご存知でしょうか?」
「知っとるよ。まぁ、もうこの町でもわし位のもんじゃろうが…。そんなもん聞いて、一体どうするんじゃ?」
「いえ…どうも気になって仕方ないんですよ。一番と二番の歌詞は聞いたんですが、その内容がどうも…。」
「おどろおどろしいと言いたいんじゃろ?わしもそう思ぅとるが、この町にゃこの数え唄しか無かったからのぅ。」
どういう意味だ…?少なくとも、どんな地方にも幾通りかのヴァージョンがあるものだ。それ以上に、子守唄や童歌はどうなんだ?普通は幾つか残っていそうなものだがなぁ…。これじゃまるで…数え唄だけを残そうとしている様に感じる。やはり…あの数え唄には何か特別な意味があるように思う…。
「それじゃ、唄ってみようかのぅ。」
キヌさんはそう言うと、ポケットからお手玉を出した。まるで…私が数え唄の歌詞を聞くのを分かってように…。
- 七つ泣く泣く下げ渡す
八つ矢文の示すもの
九つこの先如何にしよ
十でとうとう絶え果てた
先に進まばまた帰ろう
また帰ろう… -
最後まで聞き、私はゾッとした。とても子供のための唄には聞こえない…
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