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相模英二幻想事件簿
File.2 「見えない古文書」
W 6.8.AM10:23
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いがな…。
「お待ち申し上げておりました。お話は飯森様より伺っておりますので、中へお入り下さいませ。」
 私が玄関に着くことを計算していたのか、扉の前に立った直後に目の前の扉が開かれ、直ぐに中へと入れられた。そうして通された部屋は、簡素ながら整えられた洋間で、ここが来客用の部屋なのだろう。
「只今大奥様をお呼びして参りますので、暫くお待ち下さいませ。」
 そう言うや、その女性は部屋から出ていった。
「しかし、あの女性…どう見ても八十くらいだろ?この町…そんなに人材不足なのか…?」
 門でのインターホンの相手も、恐らくはあの女性なのだろう。
 私がそんなことを考えていると、不意に廊下から若い女性の声が聞こえてきたのだった。
「大奥様!また勝手にお客様の対応をなさったんですか!?私が旦那様に叱られてしまうではありませんか!」
「昔はみんな自分でやっとったもんじゃ。わしが何しようと、正義はなんも怒らんて。」
「そういう問題では御座いません!大奥様が全て遣っておしまいになったら、私の仕事が無くなってしまうではないですか!」
「フォッフォッフォッ!それもそうじゃのぅ。」
 …もしやあの婆さん…あれが刑部家の大奥様だったのか…?大奥様なんて呼ばれてるんだから、なんかこう…厳めしい面持ちの老婆を想像してたんだが…。ま、木下さんの口振りだと、こっちが正解のようだけどな…。
 暫く待っているとドアがノックされ、そこから一人の若い女性がカートにお茶を乗せて入ってきた。お茶請けも一緒にあったが…それってミルフィーユか?何故こんな場所でミルフィーユ?何もそんな食べづらいもんを出さなくても…いや、あの婆さんのことだ。きっとわざと出したに決まっている。
「お待たせ致しました。大奥様は只今おみえになりますので、お茶をお召し上がりになりながら、もう暫くお待ち下さいませ。」
 この若い女性…使用人と言うよりも通いの家政婦と言った雰囲気だ。如月家とは違い制服ではなく、どう見ても私服にエプロンを着けてるようにしか見えないからな…。
「いやぁ、お待たせしたのぅ。」
 家政婦さんが部屋を出て少しすると、なんとも間の抜けた声を出して、あの婆さん…いや、大奥様が入ってきた。今度はしっかりとした和風姿だったが…。
「まぁた叱られてしもうたわい。わしも若い時分は、ああして客をもてなしたもんなんじゃがのぅ。」
「はぁ…。」
 何だか返答に窮するなぁ…。取り敢えず、相槌でも打っておこうか…。
 婆さんはそう愚痴を溢しつつ、スタスタと歩いて椅子に歩み寄った。
「よっこらしょっと。」
 そう声を出して椅子に腰を下ろすと、置いてあったカップへと手を伸ばしてお茶を啜った。
「梢さんや!梢さんはおらんかい!」
 今度はいきなり人を呼びだした…。何だか分からん人物だなぁ…。
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