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相模英二幻想事件簿
File.2 「見えない古文書」
U 6.6.AM9:25
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 その像は手に百合を持っていたため、私はそう呟いた。
 その時、後ろから突然声を掛けられ、私はギョッとして直ぐ様振り返った。すると、そこには七十歳くらいの老爺が立っていた。
「すいません。林を散策していたら、偶然この場所を見つけたもので。」
 私は直ぐにそう言ったが、老爺はこちらを睨んでいる様だった。立入禁止だったんだろうか…?
「お前、この土地のもんじゃねぇな?」
「ええ…。如月夫人のご厚意で、お屋敷へ宿泊させて頂いています。出身は東京ですよ。」
 私がそう説明するや否や、その老爺の態度がコロッと変わった。
「ああ、君が相模さんかい。こりゃ失礼したのぅ。奥様から聞いとるよ。」
 何だかなぁ…。どうも肩透かしを食らった気がして苦笑しつつも、目の前に立つ老爺へと返した。
「失礼ですが…お名前をお聞きしても?」
「おお、こりゃ失敬した。わしゃ、このお屋敷で庭師をしとる木下っちゅうもんじゃ。かれこれ五十年近くもここで働いとるよ。」
「へぇ…五十年ですか。では、如月家代々の当主に仕えていたわけですねぇ…。」
「まぁのぅ…。ま、ここで立ち話もなんじゃな。あそこで座ろうて。佐原、こっちに茶を持ってこい!」
 そう言うや、木下さんは私を東屋へと連れて行き、そこへ一緒に腰を下ろした。そこへさっき出会った男性がお茶を持って現れたのだった。
「先程は…。」
 私は苦笑混じりに佐原さんへと挨拶すると、向こうも同じように苦笑しつつ挨拶を返した。
「なんじゃ、佐原にはもう会っとんたんか。」
 私達に面識があると知り、木下さんは幾分残念そうにそう言った。
 暫くは他愛無い話をしていたが、ふと私は例の数え唄が気になり、目の前の老爺に尋ねてみようと考えた。歌詞を全て知りたいと思ったからだ。
「そうさのぅ…わしも全て覚えとるわけじゃないが、二番は確か…こうじゃったなぁ…。」
 そう言って木下さんが歌ったものは、これまた奇っ怪な歌詞で、私も隣に座っていた佐原さんも眉を潜めてしまった。

- 四つ四角曲がったら
 五つ五つの佛様
 六つ虚しい血の涙
 何処へ行こうか三途の川を
 ゆるりと流る舟の先 -

「まぁ、こりゃ歌われんようんなって久しい唄じゃて。全て覚えとるんは、もう殆んど居らんじゃろう。聞いて解るじゃろうが、こりゃ数え唄や子守唄っちゅうもんとは違う。何でこんなもんが歌い継がれたかは、もう誰にも分からんのぅ…。」
 木下さんはそう言って空を仰ぎ見、古い記憶を垣間見るような表情をしていたが、ふと我に帰り「佐原、仕事せにゃ今日中に終らんぞ!」と言って立ち上がった。そして私へと振り返ってこう言った。
「もしかしたら、刑部んとこの婆さんが知っとるかもしれんよ。明日辺り戻っとるかも知れんし、聞いてみたらどうじゃい?」
「オサカベ?」

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