巻ノ七十二 太閤乱心その十一
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「世にはお伝えします」
「ははは、御主が見たままでよい」
「そうですか」
「ありのまま伝えよ、わしの最期はな」
「では」
「恥ずかしくない様にする」
秀次にしてもというのだ。
「出来るだけな」
「その様にされますか」
「最期もな」
その腹を切る時もというのだ。
「そうする、では今宵はな」
「これより」
「宴じゃ、御主も付き合え」
秀吉に自分に切腹をする様に言ってきてその腹を切るのを見届けに来た福島にだ、秀次は笑ったまま言った。
「ではな」
「はい、それでは」
「般若湯がある」
所謂酒だ。
「寺の者達も用意してくれておってな」
「それを飲み」
「精進ものもある」
肴もというのだ。
「それを食いながらな」
「宴ですな」
「それを楽しもうぞ」
「殿、それでなのですが」
これまで控えていた秀次の家臣達も応えた。
「我等もです」
「お供します」
「そうさせて頂きます」
「是非共」
「御主達は死ぬことはないが」
秀次はこうだ、彼の家臣達に悲しい笑顔で言った。
「よいのか」
「はい、我等はです」
「殿の家臣です」
「そのつもりでここまで来ました」
「ですから」
「ここはです」
「お供させて頂きます」
「そうか、わかった」
秀次は彼等の心を知った、それでだった。
彼等の心を汲み取りだ、こう返した。
「ではな、御主達も宴に出よ」
「では」
「今宵は」
「ははは、心ゆくまで飲もうぞ」
ここでもあえて笑ってだ、秀次は言ってみせた。
「そして明日な」
「見事に」
「旅立ちましょう」
「では」
福島は主従も見てまたしても涙を流した、感極まっていたがそれでもだった。役目を果たすことにしたのだった。
秀次主従と共に寺に来た者達と共に飲んだ、だがこの夜ばかりは無類の酒好きの彼も酒は殆ど飲まなかった、いや飲めなかった。
そしてだ、その次の朝だった。
家臣達が腹を切っていき秀次が彼等の願いを受けて自ら解釈をしてだった。最期に秀次が見事に果てたのを見届け。
福島は無念の顔でだ、泣きながら言った。
「見事であられました」
「まことに」
「これ以上はないまでに」
共に見た者達も言う。
「関白様に相応しい」
「そこまでのものですな」
「それだけに申し訳ありませぬ」
秀次にだ、福島は再び頭を下げた。
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