巻ノ七十二 太閤乱心その十
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「最後になる」
「はい、では」
「さらばじゃ」
秀次は優しい微笑みで幸村に別れを告げた、これでだった。
幸村は秀次の前から風の様に消えた、そして十勇士達の前に戻りそのうえで彼等に秀次と話したことを全て話した。
そのうえでだ、項垂れる彼等に言った。
「戻ろうぞ」
「関白様がそこまで言われるのなら」
「致し方ありませぬな」
「それでは」
「この度は」
「それしかない」
戻るしか、というのだ。
「わかったな」
「はい、では」
「これよりです」
「伊勢に戻りましょう」
「そしてですな」
「伊賀の方々にも話す」
秀次と話したことをというのだ。
「そのうえでな」
「去りましょう」
「そうしましょうぞ」
「ではな」
こう話してだ、そしてだった。
幸村は十勇士達を連れ高野山を後にした。そして高野山を出たその時にだ。
十勇士達と共に高野山に深々と頭を下げてだ、伊勢に向かった。
そのうえで身代わりになっている者達に事情を話すとだ、彼等も項垂れた。
「そう、ですか」
「では」
「そのことを殿にお話します」
「残念ですが」
「お頼み申す」
幸村は彼等に申し訳なさそうに言った。
「内府殿に」
「ではすぐに江戸に戻ります」
「そのうえで」
「それでは」
幸村は彼等にも別れを告げた、入れ替わりから元に戻ったのは一瞬だった。伊賀者達はすぐに江戸へと戻った。
幸村はあらためてだ、十勇士達に言った。
「ではな」
「これよりですな」
「残った務めを果たし」
「そうして」
「帰るとしよう」
是非にと言うしかなかった。
「そのうえでな」
「まことに残念ですが」
「それしかないですから」
「では」
「そうしましょうぞ」
「それではな」
こう言うしかなくだ、幸村も。
務めを果たすだけだった、彼はそこに深い無念を感じていたがそれを必死に押し殺してそのうえでそうしていた。
そしてだった、彼が高野山を去った暫く後でだ。その高野山にだ。
福島達が来てだ、秀次に申し訳なさそうに告げた。
「明朝です」
「わかった」
秀次は一言で返した。
「ではな」
「はい、では」
「見てくれるのじゃな」
「申し訳ありませぬ」
福島は一同を代表してだった。
秀次に深々と頭を下げてだ、こう彼に言った。
「それがしも、関白様を」
「よい」
また一言で言った秀次だった。
「気にするな」
「そう言って頂けます」
「では明日の朝じゃな」
「立派だったとです」
福島は顔を上げた、見ればその顔は涙で濡れていた。そしてその顔で秀次に対してこう言ったのだった。
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