巻ノ七十二 太閤乱心その九
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「そうする」
「左様ですか」
「だからな」
「ここで」
「わしは腹を切る」
澄み切った、迷いのない声での言葉だった。
「そうする」
「わかり申した」
「ただ、わしも豊臣家の者」
秀次はこうも言った。
「だから豊臣家の安泰、それが駄目なら存続をな」
「望まれますか」
「そうじゃ、よかったらお拾様をじゃ」
「あの方を」
「頼めるか、若し豊臣家が天下人になれなくなったら」
その時はというのだ。
「お拾様のお命だけはな」
「お護りせよと」
「そうしてくれるか、これでわしが去り」
それからのこともだ、秀次は言うのだった。
「太閤様がお拾様元服される前に世を去られれば」
「その時は」
「どうなるかわかるな」
「天下はとても」
「天下を治める者がいなくなる」
そうした状況になってしまうというのだ。
「どうしてもな」
「確かに。そうなれば」
「天下はまだ定まってはおらぬ」
この現実もだ、秀次はわかっているのだ。それで言うのだ。
「だからな」
「お拾様だけになりますと」
「豊臣家の天下ではな」
「なりなりますな」
「とても保てぬ、しかし天下は泰平でなければならぬ」
秀次は幸村に言った。
「だからな」
「次の天下人が、ですか」
「必要になるが」
「それは」
「若しお拾様を支える者がいれば別じゃが」
「そうでなければ」
「天下を望む御仁が天下人になってもじゃ」
例えそうなってもというのだ。
「仕方ない、まずは泰平じゃ」
「それがあるべきですな」
「だからな、その御仁に譲ってもよいが」
天下、それをだ。
「お拾様をな」
「お命だけでも」
「お護りして欲しいがよいか」
「ですが関白様はその」
拾の為にというのだ、幸村は秀次にこのことを話した。動かしようのない事実を。
「お拾様の為に」
「それでもじゃ、豊臣家が残る為にはな」
「どうしてもですか」
「お拾様を頼めるか」
「それがし、関白様に認めて頂きました」
武士としての彼をだ、幸村は秀次にこのことを述べた。
「士は人を知る者の為に、義を貫くもと聞いています」
「だからか」
「はい、そのお言葉必ずや」
「ではな」
「この幸村何としても果たしまする」
「頼んだぞ」
「さすれば」
幸村も応えた、そしてだった。
秀次にだ、今生の別れを述べた。
「おさらばです」
「うむ、この生ではな」
秀次も微笑んで応えた。
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