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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第二百四十二話 器と才
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の宇宙艦隊は本当に若い指揮官が揃っているのだと実感した。

「それは、お役にたてそうですな」
今度はメルカッツ副司令長官が笑い声を上げた。
「不安かな」
「多少の不安は有ります」

私の答えに副司令長官が頷いた。
「まあ、以前に比べれば軍は大分風通しが良くなった。御蔭で私のような武骨者でも副司令長官職が務まる。卿も余計な事を考えずに己の職務に励めば良い」
「そう努めます」

私の答えに副司令長官は何度か頷いていた。
「何か聞きたい事が有るかな?」
「では一つ、司令長官の為人を」
「ふむ、司令長官の為人か……」

穏やかそうな人物に見えた。才能が有るのも分かっている。司令長官室での話は私の心を揺す振った。だがどうなのだろう、信頼できるのだろうか? ローエングラム伯の死にも司令長官が関わっていたという噂があるのだ。謀略家としての一面を持つ司令長官に一抹の不安が無いと言えば嘘になる。安心してついていけるのか、用心が必要なのではないかと……。

「能力は言うまでもない事だが、特筆すべきは辛抱強いことだろうな」
「辛抱強い、ですか」
私の問いにメルカッツ副司令長官が頷いた。

「自分より年上の部下に囲まれているのだ、かなり気を遣っているようだ。思ったことの半分も言っているかどうか……。だが不満を表に出したことは無いし、それを周囲に気付かせることもない」
「……」

「先の内乱で私も取り返しのつかない失態を犯した。オーディンに迫るシュターデン大将の艦隊を見過ごしたのだ。副司令長官としては有るまじきことで叱責されても仕方が無かったが、注意を受けただけでそれ以上の叱責は無かった。当時私は副司令長官に就任したばかりだったからな、私の立場を慮ったのだろう」
「……」

その件については私も知っている。オーディンに近づくシュターデン大将を司令長官自らが重傷の身を押して出撃、兵力において二倍の敵を撃破した。人々は司令長官の武勲に感嘆しメルカッツ副司令長官の失敗には気付かない、或いは重視しない……。

「ローエングラム伯とはその辺りが違うな」
ローエングラム伯か……。
「伯は大逆罪に関与していたとされていますが、本当なのでしょうか」
私の問いに副司令長官は首を横に振った。

「ローエングラム伯個人は陰謀に加担してはいなかったようだ。しかし伯の周囲が加担していた、グリューネワルト伯爵夫人もだ。伯を軍の頂点に据え、いずれは帝位を簒奪させる……。伯が居なければ、いや、伯の不満が無ければ起きなかった事件だと思う、無関係とは言えん」
「……」

「ローエングラム伯は不満を隠さなかった。あの大逆事件は、伯の不満が生み出したと私は思っている」
何処か嘆息するような口調だった。メルカッツ提督自身、あの事件には思うところが有
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